鹿島美術研究 年報第28号
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― 54 ―㉛ 宗達派草花図の展開に関する研究―喜多川相説筆「秋草図屏風」を基軸として―(六曲一双・紙本著色)に注目して宗達派草花図の個性・派生・再生を検証する。すことで、美術史の立場から、密教・顕教・浄土教の相関について、新たな見解を提唱しうるものと考える。なお、これに関連するテーマで、海野啓之氏の報告があるが、堂内空間を祈りの場と捉える同氏の視点も踏まえたうえで、作品に即しつつ異なる視点から補強するものである。この基礎的な調査研究は密教性の表象の問題として行うが、次段階では諸種の光背・台座形式や天蓋等の荘厳具との関係、さらには像内納入品や梵字等との多層的な関連考察に向かうことになるだろう。中世以降の彫刻史における新しい視点を提唱するものに値するものと考える。研 究 者:日本女子大学 人間社会学部 文化学科 助手  岡 田   梓近年、宗達工房の草花図は「大琳派展」などの展覧会でその存在感を発揮し、次第に注目を集めるようになってきている。これにより工房作品や工房の画家の再評価の流れが生じつつあるものの、実際には宗達工房の中で中心的な画家として法橋位に叙され、落款で名前がわかっている俵屋宗雪と喜多川相説についての研究は進行していない。とくに喜多川相説その人については、一次史料が非常に乏しいために依然として大部分が謎に包まれている。本研究では、喜多川相説の作品のうち、石川県立美術館が所蔵する「秋草図屏風」作風にも増して相説と宗達派との関係性を強く印象づけるのは、「伊年」印を用いたことである。相説は「伊年」のほかに「宗雪」の印文も使用し、近世の画史類で、相説は宗雪の弟子あるいは弟、もしくは子などとされるため、概ね相説と宗達の間には宗雪が介在し、宗達との関係は宗雪より遠い人物であるという評価である。認知度や評価は高くない相説であるが、北陸の在野の泥臭さを感じると評されるような、絵の具の色をくすませる墨や藍などのたらし込みを多用する作風が、一種独特な個性を発揮している。この個性がいかんなく表現され、注目される作品が、石川県立美術館が所蔵する秋草図屏風(六曲一双・紙本著色)である。この作品は各隻に相説法橋の款記と「宗雪」朱白文小方印、「伊年」朱文円印が捺され、落款においても興味深い。

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