― 55 ―㉜ 中国福建省・閩江流域における陶磁器研究―宋元時代の黒釉茶碗および所謂同安窯系青磁を中心に―相説の作品については落款の整理は本格的に行われていないが、複数の印章を併用するなど使用方法が複雑な相説の作品においては、印章の整理は本来、制作活動の一端を知るためには不可欠な作業であり、印章の比較分析が作品分析に与える効果は大きい。本研究では印章のデータ収集とその照合作業にとどまらず、さらに描かれたモティーフや構成など総合的な内容とも照らし合わせて分析を行う。これらの調査を経て、近代日本画家たちと宗達派の草花図の関係を作品や言説などから探る。さらに西洋技法の流入著しい時代に、どのように宗達派草花図を受け入れ、どのように影響を受けているのか、とくに草花図に注目して考察を試みる。研 究 者:山口県立萩美術館・浦上記念館 専門学芸員 徳 留 大 輔本研究は、中国福建省の閩江流域、およびその周辺地域における宋元期の陶磁器、その中でも特に黒釉陶器と所謂「同安窯系青磁」の特徴を抽出し、類型化を行い、各窯、各地域間の影響関係、系譜について整理、検討する調査研究である。現在、日本国内に茶の湯の道具として伝世し、また国内の遺跡で出土する中国陶磁の中でも福建陶磁が出土する割合は高く、福建陶磁の研究は日本における中国陶磁研究、茶の湯の文化研究には不可欠である。今回、主要な研究対象地域とする閩江流域は、その河川沿いに宋元時代の多くの窯が確認されており、各窯間で大量の黒釉陶器と同安窯系をはじめとする多くの青磁が焼造されている。近年、大量に発見されている新資料も踏まえ、それらの作風や器種構成、制作の特徴に基づいた類型化、さらに地域間、窯間の比較研究が求められている。このことからもまさに本研究は、その問題の視点に立った上での研究として位置づけられる。さらに日本に招来されている福建産の茶道具のルーツ、とくにその同定に関する問題と、多様性の見られる福建陶磁の中から茶の湯の価値観の中で、取捨選択されてきた過程を、考える上でも意義があるものと言える。また本研究では、現地福建省の研究者も交えて調査・研究を行うものであり、日本の研究状況、中国での最新の研究状況を踏まえて行うことからも、意義のあるものと
元のページ ../index.html#70