鹿島美術研究 年報第28号
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― 56 ―㉝ 「騎馬図巻」の図像学的考察考える。研 究 者:熊本県立美術館 学芸員  金 子 岳 史これまで室町時代から江戸時代にかけて作例が遺る厩図屏風という主題の成立過程の解明を目的として研究してきたが、そのためには厩図屏風が出現する以前の先史研究が必要と考え、日本における「画馬」の伝統という視点で、「大宋屏風」や、「随身庭騎絵巻」などの随身の乗馬図について考察してきた。そしてその過程において、「騎馬図巻」も、厩図屏風に至る「画馬」の伝統から派生したものと捉えられるのではないかと考えた。つまり「画馬」の伝統において、随身乗馬図から人物がいなくなったのが厩図屏風であるとすれば、騎馬人物図そのものの展開上にあるのが「騎馬図巻」であると想定している。「騎馬図巻」については、これまで榊原悟氏が図版解説で触れている程度(『秘蔵日本美術大観第8巻 ケルン東洋美術館』講談社、1992年)であり、本格的な研究論文はない。そこで本研究では、「騎馬図巻」の基礎研究を固めることで、「騎馬図巻」を「画馬」の伝統の中に位置づけを行いたい。また、騎馬図巻の中には武士が馬を調教している図像が含まれており、近世初期に複数の作品が遺る調馬図屏風にも関係してくると考えている。調馬図屏風についても先行研究に乏しく、主題の成立まで踏み込んだものはない。そこで「騎馬図巻」からの延長上に捉えるという新たなアプローチで迫ることにより、新知見が得られることが期待される。さらに「調馬・厩図屏風」(滋賀・多賀大社)は調馬図が厩図と対になっていることから調馬図は厩図屏風との関連性が考えられ、厩図屏風の研究にもつながると考えている。このように、本研究は「騎馬図巻」そのものにとどまらず、将来的には、「画馬」の伝統を考える上でも重要な、発展性のある研究になると思われる。

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