鹿島美術研究 年報第28号
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― 59 ―㊱ 15世紀後半のローマにおける埋葬用礼拝堂壁画装飾研究―ブファリーニ礼拝堂とカラファ礼拝堂をめぐって―研 究 者:九州大学大学院 人文科学府 博士課程  荒 木 文 果ブファリーニ礼拝堂壁画装飾とカラファ礼拝堂壁画装飾を個別に論じた研究として、それぞれH. M. ラリックの博士論文“Pintoricchio’s Saint Bernardino of Siena Frescoes in the Bufalini Chapel, S. Maria in Aracoeli(1990)”とG. L. ガイゲルのFilippino Lippi’sCarafa Chapel(1986)が挙げられる。いずれも図像解釈学的な観点から礼拝堂装飾の考察を行っており、両礼拝堂壁画装飾における構想や表現形式の類似性には関心が払われてない。また近年刊行されたピントリッキオとフィリッピーノのモノグラフにおいても、(ガリバルディ/マンチーニ、2008・ザンブラーノ/ネルソン、2004)両画家の芸術的関連性は、ピントリッキオのモノグラフの中でラ・マルファが言及したように、ブファリーニ礼拝堂で考案されたグロテスク装飾と描かれた建築的要素による統一的な空間構成がフィリッピーノに受け継がれている点のみである。しかし実際には壁画の分割方法、逸話の選択や配置、ルネッタ部分に用いられた構図といった視覚的に確認可能な要素から、聖人伝を礼拝堂装飾時の同時代的問題に結び付ける手法まで様々なレベルでフィリッピーノがブファリーニ礼拝堂壁面装飾から得た要素をカラファ礼拝堂において用いていると考えられる。本研究は、従来の個々の芸術家の活動に焦点を当てたモノグラフ的な考察では解明が困難であったピントリッキオとフィリッピーノのローマでの芸術的関連性を明らかにするものである。一方、M. A. レイヴィンはThe place of Narrative(1990)において両礼拝堂に特別に一章を割き、物語場面の進行についての共通性を指摘した。しかし、ブファリーニ礼拝堂壁面装飾について図式的に示された物語の進行の流れに採り上げられていない逸話もあり、十分に考察が行われたとは言い難い。本研究は、レイヴィンの論を補完する役割も果たすことができるだろう。

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