― 66 ―㊹ カンディンスキーの幾何学的抽象絵画 ―その芸術理念からの考察―る。また、植民地台湾美術を考察する際、官展に出品された作品を拠り所として台湾画家のアイデンティティを求めることが多いが、この場合、考察の枠組みは地理的な「台湾」に限定され、当時の台湾漢人が本籍(祖籍)をおいた中国との関わりが意識されることは殆どない。しかし、植民地台湾美術の意義を正しく理解するためには、官展の中だけではなく、より大きな枠組みの中で状況を捉える必要がある。これらを踏まえ、本研究では日本に留学し、後に中国に渡った台湾画家たちの中でも特に、台北師範学校・東京美術学校を経て中国で美術教師となった陳澄波(1895−1947)と劉錦堂(1894−1937)を取り上げる。彼らが中国と台湾で果たした役割を明らかにするために以下の調査を行う。1.東京文化財研究所にて1920年代の日中美術交流に関する資料を調べる。2.関係者を訪ね、また美術館にて、作品・遺品の詳細な調査をする。3.台北、嘉義、上海、杭州、北京、廈門の図書館、資料館などで、当時の展覧会、美術教育、画家たちの交流に関する一次資料を求める。4.台湾・上海・杭州・廈門にて研究者を訪ね、情報・意見を交換する。これらの調査をもとに、作品の様式・画題を比較分析した上で、その主体性を考察する。また、中国画家たちとの交流、日本留学というブランドを持った美術教師としての活動、中国にいた他の台湾画家たちとの関係に焦点を当てることによって、日本・台湾・中国という境界を越えた美術交流の中で彼らが果たした役割の一端を明らかにする。研 究 者:国立新美術館 主任研究員 長 屋 光 枝本研究の目的は、以下の3点に要約できる。1 .本研究は、様式の異なったカンディンスキーの作品を「抽象」や「コンストラクション」という一貫した観点から考察する点に意義がある。ミュンヘン時代に画家は、「隠されたコンストラクション」という理念を実施し、これを来るべき「抽象」の指標の一つと考えた。そして、具象絵画ではなしえない視覚的効果によって、観者に心理的インパクトを与え、その視覚を刷新しようと目論んだのである。本研究では、バウハウス時代の作品にも「コンストラクション」への問題意識が継承されているのか、または新たな展開が果たされたのかを検証するため、作品の構成的特
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