7月王政期、国王ルイ・フィリップの意向によって1838年から1848年までルーヴル美術館で公開されていた「スペイン・ギャラリー」は、一般にはほとんど知られていないが、19世紀のフランス美術に非常に重要な影響を及ぼしたことは確かであろう。フランスにおけるスペイン絵画の受容を調査研究し、これまで博士論文(2006年)、学会発表(2008年)と、このテーマで取り組んできたが、今後も引き続きフランス(パリのテロール財団を中心に)で、さらにイギリスでも調査を行い、研究成果をまとめ、論文にすることが目的である。「スペイン・ギャラリー」の絵画収集を行ったイシドール・テロール男爵(1789−1879)は、「芸術家たちの父」と呼ばれながらも、わが国はもちろん、フランスにおいてもほとんど知られていない。「スペイン・ギャラリー」を中心に、彼の他の重要な美術業績(1846年のバザール・ボンヌ=ヌーヴェルの美術展)の調査研究をパリのテロール財団に行き、その調査結果を論文で発表することが目的である。― 70 ―㊽ ルイ・フィリップのスペイン・ギャラリー鏑木清方や門下の画家たちは、同時代の風俗を描くことに価値を見出し、画壇において特色を示そうとした。その作品に関しては、近年調査研究が進みつつあるものの、いまだ検討の余地を残している。山田喜作らの画家に関しては、帝展に出品された作品により、画業の一端を知ることができるが、未知の部分も多い。清方を含め、その門下の画家は多く雑誌の口絵や挿絵を手掛けている。それらを詳細に調査することにより、各画家の画業に関してより多くのことを明らかにできる。さらに印刷物の仕事が日本画の作品制作にどのような影響を与えたかについても検討していく。また、口絵や挿絵には雑誌の読者の要求が反映されていたことが予想される。画家、読者、出版社の三者の関係性を明らかにすることは、当時の作品受容の問題にもつながる。同時代女性を描いた作品を購入した層についても、同時代の資料や出版物を丹念に調査し、明らかにしていく。以上の作業により、美人画展等で断片的に目にされるに留まっている昭和初期の同時代女性を描いた作品について、社会的、時代的背景の中での包括的な理解を目指す。研 究 者:日仏美術学会 実行委員 石 井 美佐子
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