男性にふさわしい良妻賢母の「日本女性」を教育することで、家庭の中からの同化を目指す政策が背景にあったことを明らかにしている。以上のように、本論文は明確な課題に対して作品、文献資料を詳細に調査分析し、確かな結論を導き出しており、今後、朝鮮美展など「日本の植民地統治と美術活動」について行われる研究の基本的な論文たりうるものとして高く評価し、財団賞と値すると判断された。《西洋美術部門》財団賞 小林亜起子「 フランソワ・ブーシェによる王立ボーヴェ製作所のタピスリ優秀者 小泉順也「コレクターとしてのモーリス・ドニまた、優秀者には清水紀枝氏の「12・13世紀の日本における如意輪観音像の展開」が選ばれた。論文では、とくに聖徳太子ゆかりの半跏思惟形の如意輪観音像の成立の背後に後白河院(1127−92)の太子および如意輪観音の功徳により王権を護持したいという思いと太子ゆかりの寺院への進出を計っていた真言宗の意図とが一致したところに求めた視点など独自で、きわめて示唆に富む論考である。ー連作〈神々の愛〉について─ゴーガン・コレクションの形成と展覧会の機能をめぐって─」フランソワ・ブーシェは優雅で官能的な裸婦を描くロココ絵画の巨匠であるが、王立ボーヴェ製作所のタピスリー・デザイナーとしても活躍した。小林氏は、ブーシェがその下絵を描いた連作、オウィディウスの『変身物語』からの〈神々の愛〉を研究対象として、《バッコスとエーリゴネ》の制作意図とその着想源を明らかにしたものである。まず、〈神々の愛〉連作がブルボン家王室で愛好された主題である事実を指摘し、同題の図像伝統を検討した後、ルイ14世の命による出版、バンスラード作『ロンド形式によるオウィディウスの変身物語』の挿絵では、バッコスを「偉大なる国王」として称揚するイメージが創出された点に注目する。さらにタピスリーの中に見出される「演劇の仮面」を、1747年3月13日に上演されたバレエ『エーリゴネ』と結び付けて、このバレエを本作の着想源とするのである。確かに、バレエの台本では本来の物語は一部改変されて、「高貴な神バッコスに恋したエー─《バッコスとエーリゴネ》の愛をめぐって─」― 15 ―(文責:有賀祥隆委員)
元のページ ../index.html#29