鹿島美術研究 年報第29号
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リゴネが、アモルの力を借りて愛を成就する」という筋に読み替えられ、二人の幸福な結びつきで終わる。バレエがヴェルサイユにおいて、ルイ15世臨席のもと、国王愛妾のポンパドゥール夫人自らがエーリゴネ役を演じて上演された事実を踏まえれば、タピスリーが「国王とポンパドゥール夫人の愛」を祝福するために構想されたという小林氏の推論は極めて蓋然性が高いものと言えよう。本論と並行して執筆された『美術史』169冊掲載の《アポロンとクリュティエ》への同様の考察をも考慮すれば、その結論は一層強固なものとなるであろう。以上、その論旨および方法は秀逸であり、財団賞にふさわしいと判断された。優秀者 小泉氏は従来のドニ研究において、ほとんど注目されてこなかった彼の旧蔵コレクションの復元を丹念な資料調査を踏まえて試み、その内容を分析し洞察した。特にゴーガン作品の入手経緯やそれらの利用実態の分析を通して、ドニにあっては、収集作品は批評史上の彼の言説および展覧会、また自らの制作とも密接に結びつきながら、ドニ自身が提唱するフランスの美術史的コンテクストに供するように活用されていたと結論する。本研究は、ドニおよび同時代の美術史研究において、新たな視点を導入したものとして高く評価された。② 2011年助成金贈呈式  2011年助成金贈呈式は、第18回鹿島美術財団賞授賞式に引き続いて行われ、選考委員を代表して、高階秀爾・大原美術館長から、2011年1月14日開催の助成者選考委員会における選考経過について説明があった後、岡本専務理事より助成金が贈呈された。③ 研究発表会  本年度の研究発表会は5月13日鹿島KIビル大会議室において第18回鹿島美術財団授賞式ならびに2011年「美術に関する調査研究」助成者への助成金贈呈式に引き続いて、財団賞受賞者とそれに次ぐ優秀者である計4名の研究者により次の要旨の発表が行われた。― 16 ―(文責:大髙保二郎委員)

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