鹿島美術研究 年報第29号
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(2012年)研 究 者:茨城県近代美術館 学芸員  永 松 左 知本研究の意義・価値としては、まず、これまで本格的に調査されてこなかった堀井英男の版画作品における、同時代かやや上の世代のヨーロッパの版画、とくにハンス・ベルメール(1902−1975)やパウル・ウンダーリッヒ(1926−2010)からの影響等、制作に関わる発想源が明らかとなり、戦後日本の版画界における海外作品受容の傾向が考察されることである。具体的には、ポーランドに生まれ反ナチスの姿勢をこめ人形を作ったベルメールの、人体をパーツで捉えるような視点や、堀井と同様第二次世界大戦の敗戦国の戦後に活躍したウンダーリッヒの、人間性の無化や死をテーマとしたようなイメージ、ベルメールとウンダーリッヒに共通するエロティシズム、硬質の描線と暗い色調の彩色などが、堀井の色彩銅版画にどう影響したのかということである。また、シャープで閉塞的な世界を描いた版画とは対照的に柔らかい色彩と開放的な形態で詩的なイメージを表した水彩画が、一画家の貴重な仕事として正当に位置付けられることである。そして、堀井英男芸術の全容が浮かび上がることにより、日本の現代版画・水彩画の一動向として、作家がどのような社会背景・文化的環境の中で、自らの制作志向を追究していったのかの一端を探る事例となればと考える。構想としては、本研究の研究として、公立美術館における初の回顧展としての「堀井英男展」の開催が実現すればと企図している。没後15年以上が経ち、次第に忘れられる作家としての運命を宿しそうな堀井の作品群をあらためて検証し、戦後美術の重要な側面に光を当てるのが本研究の目的である。― 25 ―研究目的の概要① 堀井英男研究 銅版画と水彩画を中心にⅢ.2011年度「美術に関する調査研究」助成決定研究者と研究課題

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