クアトロチェントの版画に対する関心の高まりと無関係ではない。本研究は、モローが版画研究の記録を残した直筆ノートを中心に調査することによって、19世紀の画家の育成において、古典版画および帝国図書館版画室が果たした役割の一端を明らかにする可能性を秘めている。第三に、19世紀に流布していた版画史にかかわる問題である。上述のノートは、モローがヴァザーリの影響を受けたことを推測させる。19世紀後半における『美術家列伝』の需要、および版画研究に使用されていた文献を精査することは、この時代に共有されていた版画史観を理解することに大きく貢献すると考える。研 究 者:お茶の水女子大学 文教育学部 アカデミック・アシスタント本研究は、1900年前後に欧米で展開された有機的な曲線の多用を特色とする「アール・ヌーヴォー」から、いわゆる幾何学的な文様を特色とする1920年代の「アール・デコ」への移行における装飾芸術の分野でのデザインの変化とその源泉を、フランスで制作された宝飾品(金銀七宝等細工による装飾小物も含む)に焦点を絞って、ジャポニスムの視点から調査研究を行い分析しようとするものである。装飾芸術は産業界と密接に結びついている。したがってその本質を把握するには、著名な芸術家や装飾家の作例を検討するだけではなく、装飾工芸産業と直結する分野での作品を検討する必要がある。先にも述べたが、西欧の芸術とジャポニスムとの関係は、絵画など美術においては研究が進んでいるが、装飾芸術においては、個別の作家による作品の調査はなされてきたものの、それがどう応用されていったかという点まで具体的作例を通して詳細に検証されてきたとは言い難い。装飾工芸品の中でも、宝飾品は高価であるため、各メゾンや美術館にコレクション・ミュゼとして保管されているケースが多く、検討すべき資料としてきわめて有効であると思える。今回はその中でもアール・ヌーヴォー期に名を成した宝飾家によって創設されたメゾン、(候補としては)ブシュロン(現存)、フーケ(1930年代初頭閉店)、比較検討の対象としてアール・ヌーヴォーの代表的存在ヴェヴェールなどをとりあげ、彼らあるいはそのメゾンによって1900年前後から1930年代に至るまでに制作された作例を、雑誌等関連― 28 ― 味 岡 京 子⑤ アール・デコにおける宝飾品のジャポニスム
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