鹿島美術研究 年報第29号
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資料と共に検討することによって、日本のモティーフの受容史をたどる。とりわけアール・デコへと移行する際のデザインに注目し、社会背景と照らし合わせながら、アール・ヌーヴォーでのデザインと、その取り入れ方において具体的にどのように違うかを検討する。そこにおいて日本の型紙、文様本などがモデルとして存在したのではないかと推定できるが、こうした点はとりわけ欧米の研究においては見過ごされがちであるため、明確に提示し文章化することは意義あることである。フランスのアール・デコのデザインは、いわゆる「モダン」なものとして認識されている。そのモティーフはアフリカなど「他者」から借用されたものであるが、それらが西欧的秩序によって消化されたものとして提示されることによって、プリミティブなものからモダンなものへと価値づけられる。日本の影響もその枠組みの中に取り込まれているように思える。実際には秩序ある幾何学的構成のデザインに日本のモティーフからの直接的な影響を見ることができるのだが、ウィーン派の影響、つまりいったん西欧で消化されたものが取り入れられているとの認識が一般になされている。本研究はこうした点への見直しともなる。研 究 者:東京工芸大学 芸術学部 非常勤講師  國 本 学 史五色のような考え方を除き、系統や分類などを体系的に記した文献がなかった日本にもたらされた色彩学は、近代以降の日本の色の分類と整理に大きな影響を与えた。現在の日本の色は、近代以前の色材・色名の知識や理解に加え、明治時代以降に流入した新しい色材・色名、色彩学の知識・分類法、といった新しい要素により、成立している。しかし、現代では、古代から近代にかけての複雑な展開を考慮することなく、今日的なカラーシステムや史料に基づかない伝聞的な内容の文献に拠って、文化史・美術史における色を解釈することがある。一般的な理解や教養的知識に留まらず、専門的な議論の場においても同様の傾向が見られる。これは、色材・色名の歴史的展開について辿った研究が近年継続的に行われておらず、近代日本の色の展開と、色彩学の関わりについて述べた研究が少ないことに一因がある。本研究は、現代まで構築されて来た「日本的」色理解について、近代以前からの色― 29 ―⑥ 日本における色材・色名の変容と色彩学の展開

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