鹿島美術研究 年報第29号
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材・色名の歴史的変遷についても視野に入れつつ、新しい色材・色名と色彩学の展開という、日本の色の大きな転換期の状況を明らかにする。それにより、色材・色名を分類し直し、近代以降、現代も曖昧に考えられがちな、日本の美術・文化における色材・色名についての情報をまとめるものである。研 究 者:北海道立近代美術館 学芸員  石 尾 乃里子藤田嗣治(1886〜1968)は東京美術学校を卒業後、1913年フランスに渡り、やがて確立した独自のスタイルによって20年代エコール・ド・パリの寵児として活躍。中南米旅行ののち、第二次大戦中は日本で戦争画を多く手がけたが、戦後ふたたびフランスに戻り、同国を終の住処とした。その数奇な生涯とともに、渡仏初期の素朴な作風から、20年代の「すばらしき乳白色」、戦前戦中の模索期へとさまざまに作風をかえた。そうした画業の集大成にあたる、戦後から晩年にかけての作品を概観すると、ヨーロッパ絵画の伝統に回帰するかのような主題、様式へと移行していることが分かる。藤田は生前、自らの好みに添う品々や書籍を収集していたが、そうしたアイテムをイメージ源にしたと推測される作例が複数存在している。藤田の旧蔵本のなかには、自ら挿画や装丁に関わった書籍とともに、50年以降にパリで買い求めた中世キリスト教美術に関する画集や文献、ラ・フォンテーヌによる『寓話』に関連する版画集などが複数あることから、絵画制作にあたり図像や構図等の研究を重ねたのではないかと考えられる。またこのほか、2008年に当館で企画・開催された『没後40年レオナール・フジタ展』に際し、収集蓄積した君代夫人所蔵の作品に関する資料や写真、東京藝術大学に収蔵されたスクラップブック、伊原宇三郎宛てに書き送られた書簡、北海道伊達市にあるシャーマン・コレクションなどを多角的に調査し、実作品の研究とあわせて互いの相関関係を分析することで、藤田の戦後作品における様式形式と主題展開について考察することが本研究の目的である。― 30 ―⑦ 藤田嗣治・戦後作品の様式と主題に関する研究

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