することができる。「現代外国美術館」各展に関する論考はこれまで散発的に見受けられるが、その活動全体を総合的に扱った研究は存在せず、本研究はその初の試みとなる。2)両大戦間期美術の通時的かつトランスナショナルな視点からの再検討従来、両大戦間期美術展研究の中心を占めていた博覧会の研究では、イベント自体の祝祭的性質や、各国パヴィリオンの自律性の故に、美術の政治利用を、各国相互の政治・外交上の利害関係の中で変化するトランスナショナルな現象として論じる視点があまり見られなかった。対して、フランスと開催各国の交渉の上で成立していた「現代外国美術館」各展からは、美術利用をめぐる国家間のコンフリクトの実情を明確に見て取ることができる。従って、1)で得られた結果は、複雑な政治・外交情勢下で揺れ動く当時の美術状況をより正確に浮き彫りにする。加えて、多数の美術関係者が行き交ったパリという場の地政学的要素を考慮することで、従来のように各国美術を個別に論じるのではなく、国家横断的な視点から再検討する枠組を提供することができる。近年、美術史の分野ではグローバル化の視点から枠組の再検討が進んでいる。ナショナリズムが伸張した両大戦間期は、各国が国家間の関連を強く意識し始めた時代であり、目下そうした再検討が行われつつある。本研究はこの最新の研究動向をふまえたものであり、研究史の発展上も非常に意義深いものである。研 究 者:そごう美術館 主任学芸員 森 谷 美 保近代陶芸の巨匠富本憲吉については、これまで多くの研究者が調査研究を重ね、国立をはじめ全国の美術館で何度も展覧会が開かれているので、その作品と偉業は広く知られている。富本の作品として誰もが想起するのは、「色絵磁器」や「色絵金銀彩」といった晩年の代表作であるが、華やかな作品の一方で近年注目されているのは、明治末期から大正初期に富本が行ったさまざまな工芸品作りをはじめとする多彩な活動である。東京美術学校の図案科で学んだ富本は、美校時代に建築設計やステンドグラスを学び、美校卒業直前に留学したイギリスではウィリアム・モリスの作品に影響を受け、― 37 ―⑮ 富本憲吉論再考 ─未公開写真を中心として─
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