図像研究─:古典古代世界におけるウェヌス図像に関する先行研究を整備しながら、属州アフリカ圏におけるアフロディーテ=ウェヌス図像の収集に努め、分析を行いながらそれを体系化する。また同時に、当時の社会背景や文化環境としてのウェヌス信仰の受容の問題と関連づけ、ウェヌスにまつわる名所をめぐる当時の文化的、宗教的、社会的関心を考察する。Ⅱ.都市図としての本作品─古代末期の都市景観図と建築表現の変遷─:古代末期の都市景観図は建築表現によって成立し、教会堂舗床モザイクの聖地表現へと継承される点が指摘できる。舗床モザイクのみならず、壁画や写本等を含めた古代末期の複数の風景画、都市景観図を比較分析することによって、各図像の特色とその変遷を浮き彫りにする。そして、その図像生成と編成の潮流に、北アフリカ特有の多様な風景レパートリーを再編しながら、最終的に本作品の位置づけを試みる。Ⅲ.一覧図(カタログ)としての本作品─銘文とイメージの諸問題─本作品の図像解釈のために不可欠な要素である、地誌表現にかき添えられた都市名の銘文の機能に着目する。そして、北アフリカの舗床モザイクの形式としては慣習的であった競走馬や狩猟犬などの名前を記した日常生活に密着した実用的な「名札」の役割をもった一覧図(カタログ)型図像を収集し、その図像分析を行う。そして、銘文の機能とその意図を追求し、本作品の図像解釈の手がかりとする。研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程 小 野 英 二初・盛唐期に隆盛をみた阿弥陀浄土美術の作例については、松本榮一氏の敦煌画研究をはじめとして、多くの先論がある。それらは、おおむね観無量寿経、無量寿経など浄土経典の記述を踏まえ、その影響や対応関係を作品に見出そうとする視点に立脚したものといってよい。そしてその背景には、初唐の道綽・善導らによる阿弥陀浄土教大成という仏教史的画期を想定するものであった。一方で、阿弥陀成仏五十菩薩像のような特殊な図像が南北朝末〜唐代にかけて流行を見せたことが先来指摘されている。当該図像は、必ずしも浄土経典の解釈上に位置づけられるものではなく、経典と密接な関わりを持たずしても広く流布したものと捉えられる。当時、阿弥陀浄土教が庶民仏教として支持を得たという面を加味しても、― 42 ―⑲ 阿弥陀浄土美術成立の前史的研究 ─中国南北朝末〜隋代を中心に─
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