鹿島美術研究 年報第29号
58/104

その信仰に基づく美術作品にもより多様な側面を想定すべきであり、これまでに増して多面的な検証を進めるべきである。本研究の意義はこうした視点を踏まえた点に認められると考える。本研究の構想に関わる具体的な論点を挙げる。例えば、化生往生者の乗る蓮華、または、植物としての蓮を逸脱した生命力あふれる蓮茎のモチーフなどは、浄土経典に関連する記載があるとはいえ、前代までのモチーフの取捨選択という過程ぬきには成立しえない。また、浄土世界の中央で説法する阿弥陀如来がいわゆる転法輪印を結び、袈裟を涼州式偏袒右肩にまとうといった定型的表現は、日本の当麻曼荼羅などにも継承されて長く阿弥陀如来の一定型であり続けたが、それはいかなる展開の中で生み出されたのか。本研究では、今まで必ずしも重視されなかったそうした問題を重視し、阿弥陀浄土美術成立に際して反映されたとみられる当時の人々の浄土に対するイメージと、美術作品の形式展開とを結び付けて解釈しようと試みるものである。その際には、上記のモチーフや形式に注目し、南北朝末〜隋時代におけるその萌芽的展開を探り、跡付ける作業をおこなう。関連する作例については必要に応じて調査を行い、経典・文献史料との整合も試みながら、作例を整理し、モチーフや時代ごとの展開を跡付けることを目指す。研 究 者:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程アメリカ人と日本人を両親に持つ彫刻家イサム・ノグチ(1904−1988)は、生涯を通じて世界各地を旅する中で、その定まることのないアイデンティティを探求し続けた「旅行者」として専ら語られている。そして、様々な文化からの「影響」が指摘され、多義性を特徴とする彼の作品は、こうした「自己探求の旅」の産物として位置づけられてきている。しかし、ノグチの旅に関しては、2003年から2004年にかけてニューヨーク及び日本各地を巡回した展覧会Noguchi: The Bollingen Journey: Photographs and Drawings 1949−1956(『イサム・ノグチ、ランドスケープへの旅─ボーリンゲン基金によるユーラシア遺跡の探訪』)においてその一部が初めて紹介されたものの、ここで取り上げられ― 43 ― 内 山 尚 子⑳ 芸術家の〈旅行/移動〉と作品 ─イサム・ノグチの作品研究─

元のページ  ../index.html#58

このブックを見る