る。この調査研究によって、「旅行/移動」というノグチから切り離すことのできないテーマを軸としつつも、生まれゆえの不確かなアイデンティティの探求という漠然とした物語に帰結させることなく、ノグチの初期から中期の作品を再解釈してゆくことができる。研 究 者:徳川美術館 学芸員 龍 澤 彩これまで画中詞を時代を追って体系的に捉えた研究はないため、本研究ではまず、画中詞を伴う絵巻をおおよそ次のように大別し、それぞれの時代の特色を明らかにすることを目的とする。≪最初期≫「華厳宗祖師絵伝」≪Ⅰ期 14−15世紀 初期≫「十二類合戦絵」「是害房絵」「善教房絵」ほか≪Ⅱ期 16世紀 全盛期≫「鼠の草子絵巻」「付喪神絵巻」「浦島太郎絵巻」ほか≪Ⅲ期 16〜17世紀 終息期≫「かみよ物語」「太平記絵巻」ほか …画面の中に詞書が書写され、絵と詞書が融合した形態をとる作品≪Ⅳ期 17世紀後半〜 画中詞の復活≫「鼠の嫁入り」など草双紙 …詞書・台詞が一体となって画中に書き込まれた絵入り版本本研究では主として、画中詞の初発的な段階を示すⅠ・Ⅱ期を重点的に扱い、研究全体の基点としたい。Ⅰ・Ⅱ期の作品については、画中詞全文を抽出・翻刻し、①内容・詞書との対応関係(画中詞の独立性) ②小絵の絵巻の特徴があるか否かの検討 ③物語系・説話系など内容による違いがあるか否か、などのポイントについて考察する。Ⅱ・Ⅲ期については。画中詞が消えていく過程を、特に過渡的な作品(絵・画中詞・詞書が一画面内に存在する「弁慶物語絵」〈個人蔵〉など)を取り上げつつ変遷をたどる。また、Ⅳ期の絵入り版本における画中詞については、今回は補足的な部分となるが、Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ期全ての時代にわたって製作されている「鼠の草子絵巻」(『鼠の嫁入り』)を例に、各時代の表現上の特色について考察する。同作品は、鼠の婚礼という同一主題を扱う絵本が、「画中詞あり」→「画中詞なし」→絵入り版本へと変化しながら描き継がれており、画中詞の消長、ひいては物語享受の変容をたどるのに適した事例である。― 45 ―㉑ 絵巻における画中詞の研究 ─物語絵享受史への一視座として─
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