鹿島美術研究 年報第29号
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約400年間の文化、社会的混乱期を経た前8世紀には、英雄的祖先への崇拝に基づくいわゆる「前8世紀のルネサンス」が起こり、前7世紀には英雄の活躍場面を伴う《エレウシスのアンフォラ》(エレフシナ考古学博物館)のような大規模作例が登場する。従来、これらの初期の神話表現の成立は、上記のルネサンスの一要素として捉えられてきた。一方で、《エレウシスのアンフォラ》を始めとした神話図像を伴う作例が、陶器の器形や装飾様式の面においては、アッティカ墓標陶器の伝統を色濃く受け継いでいる点は、ほとんど検討されてこなかった。研 究 者:筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士後期課程本研究は、前8世紀中葉から前7世紀にかけてのアッティカ墓標陶器を調査対象とし、神話表現の成立という問題を社会的側面から考察することを目標とする。私は、神話表現の成立が何を端緒とするかという問題に対して、新たな視点を付け加えるため、神話図像を有する陶器の社会的役割を浮かび上がらせる必要があると考える。そのため、まず当時の葬礼制度を鑑みながら、墓標陶器であった可能性のある陶器を検討する。そして収集した墓標陶器に現れる図像変遷を明らかにし、神話表現が登場する時期や、その展開について考察する。ケラメイコス墓地に関する研究成果によって、前8世紀の墓標陶器には、富裕層の女性や戦士に対する哭礼図が盛んに描かれることが知られているが、前7世紀にはそれらに替わって神話場面が登場すると推測される。社会的営為である葬礼の場において、神話表現がどのように登場し、展開していくかを考察することが、本研究の目的である。研 究 者:新潟市美術館 学芸係長  濵 田 真由美ヴィデオ・アーティストの先駆者として、また前衛女性アーティストのパイオニアとしても知られる久保田成子(1937年新潟生まれ)は、1964年にアメリカに渡り、戦― 61 ― 福 本   薫㊳ アッティカ美術における神話表現の開始について─墓標陶器の図像変遷を手がかりに─㊴ ヴィデオ・アーティスト久保田成子の初期制作について─フルクサスおよびナムジュン・パイクとの関係を中心に─

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