鹿島美術研究 年報第29号
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様々な分野からの研究アプローチが可能であるが、本研究により、いまだ途上段階である美術史的観点から工房分類及び図像の描写表現の分析を進めることは、同時代の絵画史に重要な材料を新たに提供するのみならず、多くの隣接分野における参詣曼荼羅研究にも資するだろう。参詣曼荼羅の図像分析については藤澤隆子氏(「三十三所寺院の参詣曼荼羅の位置−図像の分析を通じて−」浅野清編『西国三十三所霊場寺院の総合的研究』、1990年)が、描写表現については下坂守氏(『参詣曼荼羅(日本の美術331号)』、1993年)が先駆的研究を行っているが、これらについては美術史学からの十分な検証作業がなされておらず、本研究は美術史的側面から両氏の研究を検証するという役割も持つ。参詣曼荼羅を手掛かりにして、室町時代末期から江戸時代初期という絵画史上の一大画期における絵画制作の実態を解き明かすという構想の一端を担うものである。本研究により工房の特徴を明確にすることは、その工房が制作した参詣曼荼羅以外の作品を見つけ出す助けとなり、工房の運営形態や工房所在地の解明にもつながる可能性がある。研 究 者:慶應義塾大学 人文グローバルCOE 共同研究員、      北里大学/文化学院 非常勤講師          星   聖 子本研究は、祭壇画の形式的特徴を、データベース分析を用いた統計データにより示すことを目的とする。この方法は、様々な要素が複雑に連関する美術作品の歴史的展開を、いくつかの分析項目に基づき、統計的分布としてとらえるものである。データベースはそれ自体が何らかの結論を与えるものではなく、データをどのような観点に基づいて分析するかにより、成果が得られる。本研究は、「玉座の高さ」を分析ポイントとし、15、16世紀における祭壇画の地域的特性、時系列的展開を検討する。今回は、祭壇画の制作地をフィレンツェとヴェネツィア(ただし、ヴェネツィア祭壇画の展開に大きな影響を与えたパドヴァの作例も含む)に限定して分析を行うが、これは今後、周辺都市へと展開していく必要がある。これにより「単一画面形式」や― 67 ―㊺ 15、16世紀における単一画面形式祭壇画の形式分析─「高い玉座」の導入とヴェネツィア祭壇画の展開をめぐって─

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