鹿島美術研究 年報第30号
40/124

(2013年)研 究 者:Ecole du Louvre(エコール・デュ・ルーヴル) 博士課程ナンシー国立美術学校所蔵の日本美術コレクションの調査研究は、私が2009年に調査・研究をしたナンシー市立美術館所蔵のカルティエ=ブレッソンコレクション(主に日本の工芸品や浮世絵など約1000点)と深く関連するものである。後者もまた19世紀後半から20世紀前半のジャポニスムの気運の中でナンシーに生きた美術愛好家により形成され、1936年に当美術館に寄贈されたコレクションである。この時期にフランスに辿り着いた日本の美術品や工芸品は膨大な数に上るが、それらの多くは蒐集家の死後、売り立てにより散逸し、現在までその全体像を知ることのできるコレクションは非常に少ない。このような意味で、ナンシーのコレクション群は非常に貴重なものである。また、一個人としての美術愛好家により集められたコレクションと美術学校という教育目的の同時代のコレクションを具体的な例をとって比較できることも意義深く、これらが実際にどのようにナンシー派のアーティストらに影響を与えたのかを知ることは、ガレのジャポニスムばかりが研究の対象になっているナンシー派の研究において新たな切り口を提供するものではないだろうか。また、日本美術の観点からこの研究テーマを見た時、美術学校所蔵の版本の中には海外への影響をもおそらく考慮して編集をされたと思われる明治時代の図案集(『美術世界』など)が多く見られることも非常に興味深い。これらの作成に関わった渡辺省亭など明治期の日本画家のナンシーさらにはフランスにおける受容を考察することができるであろう。これらのコレクションが今日まで本格的な研究の対象とならなかったのには幾つかの理由が考えられるが、フランスの地方都市においてこれらのコレクションを研究することのできる専門家(日本美術を解し、さらに19世紀のジャポニスムのコンテクストに精通している)の欠如がその最も大きな理由として挙げられるだろう。その一方  今 井   朋研究目的の概要① フランス・ナンシー市国立美術学校所蔵の日本美術コレクションの形成とその役割Ⅲ.2012年度「美術に関する調査研究」助成決定研究者と研究課題

元のページ  ../index.html#40

このブックを見る