鹿島美術研究 年報第30号
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研 究 者:栃木市教育委員会 文化課 学芸員  竹 林 佐 恵本研究の目的は、鈴木其一の独自の造形性がどのように形成されていったのか、画風確立期の背景を明らかにすることである。これまでの先行研究では、個々の作品についての研究、落款による編年分析と画風全体の変遷について論じたものが中心であったが、画業第1期から第2期にかけての画風確立期は、画業全体を考える上で要となる時期であり、もう少し掘り下げてその様式が誕生した背景を分析する必要がある。現在、一般的によく言われる「鮮やかな色彩」「ダイナミックな構図」「趣向性」といった其一画のイメージは、画風が確立してからその後の円熟期の作品まで、長期にわたって当てはまるものである。そのような其一らしい画風の要素は、師である酒井抱一の画風には見られず、其一独自の創造性が花開いた結果、生まれたものであると言える。いかにその画風が形成されていったのかを研究し、画業の中で位置付け、その意義を問うことは、画風確立期の作品だけでなく、画業全体を考察することにつながる。抱一の内弟子時代は、師の影響を受けながらも、其一の独自性の萌芽が見られる作品も存在しており、師から受け継いだ画風と、オリジナルの画風が共存していた時代とも言える。抱一の作品群の中には、其一の画風の要素が見て取れる作品がいくつかあり、本研究によって其一のオリジナリティがいかなるものか明示できれば、抱一の落款を有した作品の中で、其一が代筆した作品がどういったものであったのかが、明らかになるであろう。さらに、画風確立の過程を解明する上で、他の流派からの影響、パトロンや依頼主など作品の受容者層との関係を考察することは必要不可欠な課題である。其一の作品を通してそれらを分析、考察することによって、江戸期における流派間の交流が浮き彫りになるであろう。また、受容者層については、抱一一門の絵師や、其一門弟の受容者層を検討・考察する上においても、一つの例示となり、研究に広がりが生まれていくものと確信している。其一の画風確立期の研究を通して、其一の独自の画風がどのようなものであり、いかに形成されていったのかを考察することにより、抱一の画風や画題モチーフが一門③ 鈴木其一の画業における画風確立期に関する研究

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