鹿島美術研究 年報第30号
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ーフも例外ではなくそのような特徴を有する。それ故、印章印影研究は、他の表現媒体における資料不足を補い、当時の社会や宗教について解明する可能性を十分に持つ研究領域であり、本研究もその一部を担うものと考える。研 究 者:熊本市現代美術館 学芸員  芦 田 彩 葵本調査研究の目的は、マーク・ロスコの作品様式として、これまで十分に注目されてこなかった、矩形による画面構成に対する考察を通じて、新たな解釈を示すことにあり、さらにそのことによって、抽象表現主義と「カラー・フィールド・ペインティング」の関係性を探ることにある。ロスコは、1949年に確立したロスコ様式によって、抽象表現主義の画家のなかでも、ニューマン、スティルとならび色彩と形態を一体化させた「カラー・フィールド」の画家に位置づけられている。ロスコ様式は、大きなカンヴァスを用いた平坦な色面の広がりのなかに、輪郭をぼやかした鮮やかな色彩による2、3の矩形が浮遊する作品である。ロスコは、マティスやミルトン・エイブリーの作品に見られる抒情性豊かな色彩と薄塗の筆触、単純な構図に影響を受けながら、色彩がもつ力によって観者の感情に直接訴えかける絵画を描こうとした。しかし、ロスコ様式の作品を描くにつれて、ロスコは、その鮮やかな色彩が際立ち、作品の主題よりも装飾的要素が強まることを恐れ、1957年以降、画面は暗い色調へと変化する。そして、1968年には、モノクロームによる《ダーク・ペインティング》のシリーズが生み出されることになり、それ以降、ロスコの制作活動の大半は、この作品群に費やされた。ロスコの先行研究においては、その多くが主に色彩と筆触の面から検証した様式と「悲劇的主題が決定的に重要である」というロスコの芸術観に立脚した主題の分析に重きがおかれ、構図という観点からは具体的な考察がされてこなかった。しかし、ロスコの作品様式の変遷を辿ると、ペインタリーな表現のみには集約できない、構図に対するロスコの強い意識がうかがえる。本研究では、ロスコの作品様式、なかでも繰り返し用いられてきた矩形による画面構成に着目する。矩形は、作品の支持体であるカンヴァスの形態と絵画のイメージの一体化について問題を提起し、さらには西洋伝統絵画におけるメタファーとしての「窓」の存在を暗示させる。また矩形による開口⑧ 抽象表現主義とカラーフィールド・ペインティングの関係性をめぐって

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