1年間で出来ることは限られている。しかし、これまで長年にわたって、集め、データ化し、準備して来たものをまとめてみたいと思う。それだけでも大仕事である。若干不足したところを調査して補い、1年間で出来るところまででまとめておきたい。そして、小部数でも印刷して配布できるようにしたい。データを形に残すことで、今後、継続して不足を補ってくださる様な後継者が出てくることに望みをかけたい。データ化し遺すことで、研究の基盤とか、検討材料にでもなればと思う。⑯ ドラクロワ作《トラヤヌス帝の正義》 ─知的・文化的潮流から絵画へ─研 究 者:京都大学大学院 文学研究科 博士後期課程 西 嶋 亜 美関心をもっているが、現在、これに回答できる研究及び研究者はいない。例えば、版画に彫師・摺師の名が示されてあったとしても、その彫師が他にどんな仕事をし、いつ頃活躍して居たのか、関心も持たれず、まったく詳細は明らかにされないままである。高度な技術をもった技術者、すなわち木版の職人達の動向を探り、いつ頃、どんな仕事に取り組み、どのような作品を遺しているのか、究明したい。したがって、日本近代の木版彫師・摺師たちが、制作に携わった版画作品の調査・研究であり、このデータ作成なくして版画研究はないし、研究の基盤である。このことが目的である。かつて、日本の職人達の仕事を高く評価した一人に民族学者クロード・レヴィストロースがいた。中でも本研究の伝統木版の技術者とその技術力には特に注目した。技術を評価するのは実に困難を伴うのであるが、まずはその仕事ぶりを示す作例(作品)を数多く見なければならないし、それらを逐一記録し、そうしたデータを集積した上で自ずと見えてくることが評価となる。日本近代美術において、「創作」意識は盛り上がったであろうが、芸術と言われるだけの「技術」がそれに伴っているのであろうか、そんな反省に立つ意味でも、一人でも多くの職人といわれる技術伝承者の仕事ぶりを見いだしてみたいものである。本研究は、ドラクロワ作《トラヤヌス帝の正義》(1840年のサロン出展、ルーアン美術館)及び前後の諸作品を分析し、その制作の方法と戦略を明らかにすることを目的とする。成果は、ドラクロワを中心とする19世紀中盤のフランスで制作された歴史画・物語画を、演劇や文学等の諸芸術を中心に知的・文化的コンテクストに位置づけ
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