とみられるが、他方で蕭白の数少ない着色画として完成度の高い作品であるため、詳細な研究の対象として相応しいと考えられる。本研究により、「雪山童子図」に込められている意味や蕭白の発想の淵源などと同時に、本作品が所蔵されている継松寺との関係を考察することで、雪山童子という珍しい題材が選ばれた原因を解明したい。さらに、 雪山童子の逸話に関する文献史料やそれを取材にした作品を徹底的に収集し、文献史料と作品における描写との関連性を探るのみならず、蕭白の時代にあってその題材はどのように描写されてきたのかを包括的に考察することで、蕭白研究の枠を越えた題材研究にも資するところがあると思われる。研究者が収集する文献史料や絵画作品は、以上のような研究にも貢献すると期待される。研 究 者:三井記念美術館 学芸員 海老澤 るりは吉祥天は、奈良時代より「吉祥悔過」という法会を要とし、国家的事業として信仰・造像が行われたが、平安時代に入ってもなお広く伝播し重要視されていた尊像であることが知られる。従来、悔過法会とそれに伴う造像に関する研究が各分野において行われてきたが、吉祥天に特化した研究は数少なく、特に平安時代における吉祥天の造像実態については、信仰内容の多様化という問題もあり、十分に把握されていないのが実情である。研究者はこれまで、吉祥天に関して多角的な観点から考察を行ってきたが、その過程において、平安時代の吉祥天像は、現存作例の多さに対して十分な研究が進んでいないために、より多くの問題が山積し、中でも法会と造像の関係については、今後吉祥天の全体像を捉える上でも解明すべき重要な問題の一つであると実感している。そこで本研究は、平安時代における吉祥天の信仰・造像について、法会と造像の関連性に着目し、その一端を明らかにすることを目的とする。平安時代の吉祥天を本尊とする各法会の関連資料を分析・検証するとともに、作例の調査研究を行い、法会と作例を関連付けた考察を試みることによって、従来のような法会自体、個別作例自体のみの研究に偏らず、平安時代における吉祥天の各法会の関連性及び、法会に伴う信仰形態・造像実態についての明確な見解を示す事が可能となり、ここに本研究の意義⑲ 平安時代における吉祥天信仰・造像に関する考察─法会と造像の関連を中心に─
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