鹿島美術研究 年報第30号
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いることも合わせ、残存する確率が高い。高野山麓に位置する自治体(橋本市・紀の川市・かつらぎ町・九度山町・高野町・紀美野町・有田川町)の協力も得ながら、従来学術的に把握されていない資料の調査・撮影と、中央作例との比較、地域内作例との比較による資料の位置付けの明確化を通じて、高野山文化圏における造形作品の特質を浮かび上がらせることとしたい。高野山麓の仏像・神像の総体的把握により、高野山上と遜色のない優れた水準の資料群、あるいは高野山上勢力の関与により制作された資料群を確認することができれば、高野山における美術資料の文化的・歴史的評価を、山上の伽藍と子院群の資料に限定せず、より大きな高野山文化圏内の作品群により叙述する、新たな研究の枠組みを構築することができよう。我が国を代表する美術作品の宝庫である高野山に関する研究の深化は、必ず日本美術史研究の上で、大きなインパクトをもたらすものと確信する。本研究の前提としては、和歌山県立博物館でのこれまでの調査成果、特に平成24年度秋期特別展「高野山麓 祈りのかたち」開催のために行った事前調査で、多くの新資料を掘り起こすことができていることがある。こうした掘り起こしによる作品の増加は、従来から知られていた高野山上の美術作品との比較を行う上で、新たな研究の視点をもたらすこととなる。こうした新資料の歴史的、美術史的な学術評価はまさしくこれからの課題である。そうした学術的評価を前進させることが、本研究の大きな目的である。なおこの研究は、実作例の調査(撮影を含む)によって得られた、法量・構造・形状・付帯情報等の基礎的なデータに基づいて行う。そしてそうした調査の上で、各作例の学術的評価を明確にするために、中央作を含む全国の作例との比較検討を、実資料の調査や文献収集により行う必要がある。そうした研究を通じて、高野山上と高野山麓を一体のものとして捉える高野山文化圏という枠組みの中で各資料を位置づけるための理論構築を図ることとしたい。研 究 者:京都造形芸術大学 非常勤講師  峯 岸 佳 葉中国の南宋時代の屈指の能書家・張即之(1186〜1266)の書は、鎌倉時代より日中㉑ 日本における張即之書法の受容について ─「手鑑所収」の断簡を中心に─

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