鹿島美術研究 年報第30号
78/124

【マルセル・デュシャン研究との関連から】一般に「唐装」とひとくくりにされることが多いものの、唐装の十羅刹女の図像が何を規範とし、どのように展開していったのかについては必ずしも詳らかではない。唐装本の作例を一つ一つ丹念に見ていくならば、髪形や服飾はそれぞれに異なっているのであり、鎌倉時代の唐装本は、十羅刹女のうち第十奪一切衆生精気を男形に表すなど、時代における特徴的な表現もみられる。和装の十羅刹女の図像には、一定の型が存在することが指摘されているが、唐装本においても同様のことが言えるのだろうか。本研究では、尊格ごとに図像の異同を整理し、唐装本においては図像の規範性がどこまで強いものなのか、時代による推移を検証していきたい。さらに、唐装で表される女神像との比較も行うことで、唐装十羅刹女の図像が唐装で表される尊格としてある程度の一般性をもつものなのか、それとも、十羅刹女にしかみられない固有の特殊性があるのかを明らかにしたい。日本における唐装の女神像の研究は、主に服飾史の分野から進められてきているが、奈良時代には唐時代の宮廷女性像が、鎌倉時代には宋時代の仙女や聖母像など神性をもった女性像の服装からの影響が指摘されている。大陸との同時代性をもつという点においては、唐装も世俗的要素を有すると言えるのであり、服装の差違を超えて、いま一度、和装本と唐装本を含めて「普賢十羅刹女像」の特質を考察することが必要であると思われる。仏教美術がどのように日本化されていったのかという問題関心を基底としてもちながら、「普賢十羅刹女像」がどのように造形化されてきたのか、それを支えた歴史的背景や信仰の具体相を追究していきたい。研 究 者:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程/      同大学文教育学部人文科学科哲学助手室 アカデミック・アシスタント宮 内 裕 美マルセル・デュシャンのレディメイドが芸術とそれを取り巻く環境に与えた影響は今日に至るまで盛んに議論され、その作例は繰り返し参照されてきた。レディメイド㉚ ニューヨーク・ダダとオブジェ

元のページ  ../index.html#78

このブックを見る