を検証したい。あたかも広角レンズで撮影したときに生じる画面のゆがみを思わせる表現が見られる点や、画面の主たるモチーフが大胆にトリミングされている点など、これらの作品に見られる写真的な視覚は、同時代の批評でも明確に指摘されている。つまり、昭和期における「新興写真」や「機械美学」の流行が、作品の背景に通底していると考えられる。以上のように本研究は、従来十分に評価されてこなかった中村研一の昭和期官展出品作を、美術史、文化史、風俗史、写真史を横断する視点から、同時代との関連性を考慮しつつ再検討するものである。それは、従来等閑視されがちであった「官展アカデミズム」の一様相を明らかにし、その重要性を再評価するという点で意義があろう。さらには、本研究で主に考察の対象とする3作品には、大正デモクラシーから日中戦争、アジア太平洋戦争へと繋がる時代の雰囲気が象徴的に現れている。それゆえ本研究によって、中村研一の画業の多角的な理解が可能になるだけではなく、そこに近代日本の歴史が辿ったダイナミズムをも見出すことができると考えられる。そのことは、昭和初期の美術史のみで完結しない、現代社会にまで敷衍し得る問題であるという点でも重要であろう。研 究 者:インディペンデントスカラー(多摩美術大学大学院 後期博士課程修了) 永 田 真 紀中世後期から近世初期にかけて描かれた名所図屏風は、単に名所を描いた絵画であるのみならず、山水画・風俗画・都市図など様々な側面を持つ、極めて魅力的な作品群である。それらは、土地の歴史や物語をヴィジュアルに語る資料として、美術史の範囲を超えた重要性を持っている。しかしながら、地方の名所を主題とした屏風絵の研究は一部を除いて深化しているとは言い難く、現存作品の全貌すら把握されていないのが現状である。結果として、図様の系統や様式の分析、絵師と受容者との関係、一双形式における名所の組み合わせ方など、解明されていない基本的な問題が多く残されている。そこで、本研究では次のような項目を主たる目的としている。1 )作品調査を行うとともに、文献資料からも名所図屏風に関連するデータを収拾し、㉝ 中近世における名所図屏風の展開 ─天橋立図を中心として─
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