鹿島美術研究 年報第30号
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有無を示すために比喩的に用いられてきた。しかし、「オーヴァーレイ効果」は、この透明−半透明−不透明という空間の奥行きのグラデーションに対して、それとは異なる響きを持っている。「オーヴァーレイ効果」が発揮されるとき、折り重なる形象は実際に透明−半透明なものとして描写されると同時に、それぞれの前後関係が解消され、ぴったりと重ね合わされた平面として表現される。このように、研究者は本調査研究が、平面作品における透明性というトピックに新しい側面を付与し、キュビスム以降の空間表現を検証する上で重要な論点を提供するものだと考えている。透明な形象というテーマは、科学史との関連、とりわけヴィルヘルム・レントゲンが1895年に発見したX線による写真や、多重露光写真からの影響が考えられる。また、あるいは、L・D・ヘンダーソンによる研究が示しているように、非ユークリッド幾何学や時空概念への芸術家たちの関心は、マルセル・デュシャンの《階段を降りる裸婦》のように、図像が重なり合いながら移動・変容する特殊な異時同図法的表現として結実し、透明な形象をそのなかに位置づけることも可能だろう。幅広いコンテキストを念頭におきつつ、個別の作家についての先行研究を参照しながら、「オーヴァーレイ効果」に特化した観点から個々の作品の比較研究や細部に関する考察を横断的に行なうことで、モダニズム絵画にまつわる言説に対して新しいアプローチを試みたい。研 究 者:神戸大学大学院 人文学研究科 博士課程後期課程  坂 本 篤 史意義:本研究により、世界的に名高いボルゲーゼ美術館のコレクションの来歴が明らかになるだけでなく、帳簿の調査によって個々の作品の制作年が明らかになるという意義がある。サルヴィアーティ家のコレクションに関して、16世紀までの美術作品については比較的よく研究されてきたが(DELLA PERGOLA 1960; HURTURISE 1985)、17、18世紀のコレクションの歴史は、G. コルティ(1971)やPh. コスタマーニャ(2000)しか行っていない。サルヴィアーティの本家はローマに居を移していたが、彼らが所持していた美術作品は、カテリナ・マリア・ゼッフェリーナ・サルヴィアーティの婚礼以後、コロンナ家が相続し、現在のコロンナ美術館(ローマ)の核を築いた。そのためコスタマーニャの研究によって、現在この美術館が所蔵する美術作品の多くにつ㊺ サルヴィアーティ・コレクション研究 

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