きわめて高い。このような視点を新たに取り入れて考察を行うことで、本研究は、作品解釈に重要な視座をもたらすものとなるであろう。以上の考察をふまえつつ、本研究ではさらに、作品の注文者像を明らかにすることも目指す。本作がどのような人物によって注文され、いかに受容されたかについては、先行研究ではほとんど検討されてこなかった。しかし、作品理解のうえで非常に重要な問題である。そこで、本作のような世俗主題の作例がいかなる層に好まれたかという観点、さらに、美的関心、すなわちヤン・ファン・エイクら過去の巨匠たちの作品に対する趣味という観点からも分析を行い、注文者像を浮き彫りにすることを目指す。このように本研究では、作品に込められた意味を読み解き、さらにその注文者像を明らかにすることを目的とする。画面に込められた警鐘や主張を解明することは、作品理解のための本質的な作業であり、作品を生み出した当時の思潮や、作品が制作された背景についても示唆をもたらすものと期待される。また特に本作は、マセイスが世俗主題を描いた最も早い時期の作例であり、かつヤン・ファン・エイクがしばしば手掛けていたとされる世俗主題が、フランドルで再び取り上げられるようになった初期の作品として、注目に値するものである。さらに、フランドルでは、両替商や徴税人を描いた作品がこののち流行するようになるが、本作はその端緒となった作例でもある。つまり、本作に含まれた意味を知ることは、マセイスの画業のみならず、フランドル絵画の歴史を体系的に理解するためにも不可欠と言えるのである。加えて、本研究のふたつ目の課題である注文者像の解明は、本作のような世俗画について、当時の受容層を明らかにすることにもつながる。また、おそらくヤン・ファン・エイクの先例を念頭に本作が制作されたことは、15世紀末以降に高まった同画家に対する再注目という流れに属すものであるが、この現象についても、受容環境という側面から新たな知見をもたらすことが期待される。研 究 者:神戸大学大学院 人文学研究科 研究員 宇 埜 直 子意義・価値アルカンジェリに始まるオラトリオ・ディ・サン・コロンバノの研究は帰属の問題㊻ ボローニャ、オラトリオ・ディ・サン・コロンバノにおける主題選択について
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