鹿島美術研究 年報第31号
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像環境について、造形の面から具体的にアプローチすることが出来るのかもしれない。研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士後期課程  伊 藤 久 美本研究は、筆者がこれまで「明恵上人樹上坐禅像」(以下、樹上坐禅像)を中心に取り組んできた明恵像研究を引き継ぎながら、同じ京都・高山寺にてなされた他の祖師絵伝制作がそれとどのように関係するのかを考察することによって、明恵像制作の具体的な様相をより明らかにすることを目的とする。高山寺をその道場とし、華厳宗を中興した明恵上人高弁(1173〜1232)の御影制作は、上人在世時より行われてきたことが文献史料から知られる。樹上坐禅像は、微細に描き出されるその面貌表現や、画中に付された賛の内容などより、その一例と考えられるものである。本作と同じ頃に成立したと考えられるのが、新羅の華厳宗祖師である義湘の行状を絵巻に描いた、「華厳宗祖師絵伝」内の義湘絵である。今日、義湘絵は、もう一人の新羅の華厳宗祖師、元暁を描いた元暁絵と対になり、「華厳宗祖師絵伝」を構成しているが、本来、義湘絵が先に成立し、あとから元暁絵が加えられたと考えられている。これまで二絵には、明恵の事蹟や思想と絡めた考察がなされ、描かれる義湘、元暁には、それぞれ明恵の姿が投影されているとも指摘されてきた。なかでも義湘絵は、明恵没後の作とされることもある元暁絵と異なり、明恵在世中の作であることが広く認められている。いかなる形であれ、明恵自身の関与がなかったとは考えにくい。それは樹上坐禅像をはじめとする、自らのもとで行われた御影制作とも無関係ではあるまい。しかしながら、従来、義湘絵に関しては、大師が唐で出会った女人、善妙の描写や、周囲の環境表現などに目が向けられることが多く、義湘その人の物語や容貌の表現描写に焦点を当てた考察は十分になされてこなかった。義湘の表現にはいかなるイメージが読み取れるか、一種の「明恵像」として捉えることは可能であるか検討を行い、元暁絵の状況とも対照させつつ、明恵像制作の中での位置付けを明らかにする必要がある。その際、これまで取り上げられることの少なかった、日本や韓国に現存する義湘像との比較を試み、義湘絵の特徴を捉えていく。加えて、中国の『宋高僧伝』、韓㊽ 「華厳宗祖師絵伝」義湘絵における祖師像制作について

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