かし、ここで光をあてられたのはごく一部の、いわば画壇の「中央の」美術家にとどまる。この展覧会には含まれなかった、例えば戦時下と敗戦後の女性美術家たちの活動や、同時代の男性美術家による女性表象の問題、当時大日本帝国の一部とされた韓国・台湾・中国東北部における官設美術展覧会等の美術政策、日本の統治下にあった東アジア諸地域および南洋群島、シベリア半島における美術活動に関する問題など、取り上げるべき対象はいまだ多く残されている。そこで、本研究では1940年から1949年までの10年間を対象とし、1940年代という時間軸の中での日本の造形表現の動向を、上述のジェンダースタディーズやポストコロニアリズムの視点を取り入れ、調査研究することを第一とする。近代美術史の見直しや新たな視点からの研究が進められている今、従来の枠にとらわれない、より広範な視点こそが1940年代という時代を研究するにあたって最も重要視されるべきものである。なお、本研究の成果は2015年度に開催を予定している1940年代に関する展覧会に反映させたいと考えている。筆者の所属する三重県立美術館では、これまでにも20世紀の日本美術の展開を総合的に検証、再考する展覧会を3本開催しており、これに続くものとして今回の1940年代の美術展を構想している。最もとらえがたく、ゆえに最も重要な1940年代という10年間の美術史を今ここで再構築し、20世紀の日本美術史を見直す契機としたいと思う。しかしながら、大きな戦争とその後の混乱を経て、すでに消失、焼失あるいは散逸している美術作品、資料も少なくなく、また間もなく「戦後70年」をむかえる今となっては、この時代を生きた人々の証言を集めることさえ、ますます難しくなっている。であればこそ、残された情報をひとつでも多く拾い上げ整理し、後の世代へと引き継いでゆくことが喫緊の課題であり、今を生きる私たちの使命ととらえ、本研究に取り組みたいと考えている。研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程 伊 藤 千 尋江戸時代ほど子どもの姿が生き生きと数多く描かれた時代はない。とりわけ、江戸時代中期から明治時代にかけて大量に制作された浮世絵には、子どもの姿を主題化し㊿ 浮世絵における「子ども絵」の形成過程の研究
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