鹿島美術研究 年報第31号
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という観点から考察を行い、白人女性の表象と共に複合的に関連性を探ることが本研究の意義である。また、技法面において《裸のマハ》に代表される18〜19世紀スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤ(1746〜1828)作品との比較も可能であり、マネ芸術に対するスペイン美術の影響について具体的事例を通して考察する。研 究 者:東京藝術大学 美術学部 教育研究助手  太 田 智 己目的本研究の目的は、1950年代の日本の美術史学におこった史学化志向の展開過程と学史的意義を、文化史懇談会の活動内容を中心に考察することにより、具体的に明らかにすることである。意義・価値しかし1950年代の史学化志向と文化史懇談会の活動状況を明らかにし、それを学史上に位置づけることは、今後の美術史学史研究にとって必須の基本作業になると思われる。とくに文化史懇談会については、筆者が2009年から10年まで、東京文化財研究所でアシスタントとして田中一松資料の整理と目録作成に携わった際、多数の関係資料を見出すことができた。田中という戦後美術史学の代表的人物にとっても重要であ17世紀スペインと19世紀フランスでの黒人女性の実態を把握しつつ、スペイン美術の中で同時代の現実の西欧社会という場面設定下に描かれた黒人女性召使の表象を描いた作品を調査し、《オランピア》における黒人女性の比較対象として挙げることにより、マネとベラスケスに限定されない、マネとスペイン美術の関連性を更に詳細に分析することができる。注 対象から崇高なイメージを剥ぎ取り現実の卑近な存在として表現。1990年代から進展した日本の美術史学史研究は、明治期の事項を中心に成果を蓄積させてきた。これを踏まえて筆者は、明治期に後続する1910年代から50年代という、先行研究では手薄だった時期の美術史学史について研究を行ってきた。その成果は、既に論文などを通じて発表してきている。だが1950年代という戦後美術史学の始動期と、そこで学界内に起こっていた史学化志向、その中心にあった文化史懇談会については、筆者も十分な考察をしきれていない。■ 1950年代日本の美術史学の史学化志向 ─文化史懇談会の活動を中心に─

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