統合した池田氏は、これを複合的アプローチと呼んでいるのだが、この新しい方法を自覚的に用いている点も評価されよう。例えば後期の作品を、芸能史の画証として用いることに警鐘を鳴らしているのである。以上、第20回鹿島美術財団賞に最もふさわしい研究者として池田芙美氏が選出された理由である。伊藤大輔氏の研究は、天下の名宝に真正面から挑んだ力作である。まず仏教的無常観よりも、道教的、神仙的性格が強い事実を、構造分析を通して導き出す。その観点から、剣の護法の雲気表現と中国絵画における神仙的雲気文との関係、尼君巻の神仙的ユートピア性、とくに信貴山の威容が海中に浮かぶ仙山と共通することが論証される。これらは「信貴山縁起絵巻」の古代的性格を物語る。さらなる精密化が要請されるかもしれないが、気宇壮大にして発展性が認められる点が高く評価され、第20回鹿島美術財団賞優秀者に決定した次第である。 (文責 河野元昭委員)《西洋美術部門》 財団賞 荒木文果 「ブファリーニ礼拝堂壁画とカラファ礼拝堂壁画におけるフランチェスコ会とドメニコ会の競合をめぐって」について。ローマにあるサンタ・マリア・イン・アラチェリ聖堂と、サンタ・マリア・ソプラノ・ミネルヴァ聖堂は地理的に至近にあり、アラチェリ聖堂内のブファリーニ礼拝堂がベルナルド・ピントリッキオにより、ミネルヴァ聖堂内のカラファ礼拝堂がフィリッピーノ・リッピにより、いずれも1480年代において、相次いで壁画の装飾が実現された。この二つの礼拝堂の影響関係は従来、両壁面の類似した建築構造とイリュージョニズムを根拠に、ピントリッキオの先例をフィリッピーノが踏襲したものと指摘されてきたが、それらの構図や主題選択上の呼応関係にまで踏み込んでの深い考察はなかった。本研究は、両礼拝堂の壁画装飾の理念には、それぞれの礼拝堂の支援団体であるフランチェスコ会とドメニコ会の競合をめぐって」 優秀者 鈴木伸子 「 ロベール・カンパンの『聖三位一体/父なる神のピエタ/恩寵の御座』―初期ネーデルラント絵画におけるその位置づけ―」財団賞、荒木文果氏の「ブファリーニ礼拝堂壁画とカラファ礼拝堂壁画における
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