鹿島美術研究 年報第31号
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 4. ブファリーニ礼拝堂壁画とカラファ礼拝堂壁画におけるフランチェスコ会と 発表者:東京大学 日本学術振興会特別研究員(PD) 荒 木 文 果従来、両壁画に関しては、イリュージョニスティックな古代風建築部分―すなわち物語部分を規定する「枠」部分の構造とそこに施されたグロテスク装飾―における類似性が指摘されてきた。一方で、近年になって、画家フィリッピーノはカラファ礼拝堂壁画の物語場面の構築においてもブファリーニ礼拝堂壁画を参照したことが明らかになった。以上をふまえ本発表では、幾度となく異端の嫌疑をかけられながらも、死後わずか6年(1450年)で列聖されたフランチェスコ会の聖人シエナの聖ベルナルディーノの正統性をめぐるフランチェスコ会とドメニコ会との対立に注目し、両壁画の主題上の呼応関係を指摘することで、両壁画が二大托鉢修道会の競合意識を内包した一対の作例であると考えられることを提言する。発表ではまず、15世紀末のローマにおいて両壁画の視覚的な類似性が持ち得た意義について確認する。次に、ブファリーニ礼拝堂左壁面上段のルネッタ部分に描かれた《聖ベルナルディーノの隠遁》における聖人称揚のあり方を、図像表現や構図の観察をもとに示す。さらに、ベルナルディーノを称揚する同画面が、ドメニコ会側に対しては、彼のユダヤ的思想への傾倒―具体的には、イエスの神性を認めぬ「三位一体」に反した思想―を想起させたと考えられることを、ベルナルディーノを異端審問に1480年代前半、ペルージャの画家ベルナルド・ピントリッキオ(1454−1513)は、カンピドーリオ広場に隣接するサンタ・マリア・イン・アラチェリ聖堂(フランチェスコ会)で、ブファリーニ礼拝堂壁面装飾を行った。本礼拝堂は15世紀初頭に説教によって人気を博したフランチェスコ会の聖人シエナの聖ベルナルディーノ(1380−1444)に捧げられ、その壁面に描かれた聖人伝には、聖人称揚のための図像プログラムが用意された。続く80年代後半、フィレンツェの画家フィリッピーノ・リッピ(1457/58−1504)が、パンテオンに程近いサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ聖堂(ドメニコ会)で、受胎告知の聖母とドメニコ会の聖人聖トマス・アクィナス(1225−1274)に捧げられたカラファ礼拝堂装飾壁画を制作した。ドメニコ会の競合をめぐって

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