鹿島美術研究 年報第31号
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1 研究内容の意義と価値第一に、淡交会の資料調査の目的を述べる。淡交会は、当時、異なる美術団体で活躍した東西画壇の巨匠6人が一堂に会する貴重な展覧会であり、美術界で衆目を集め、多くの名作が誕生した。しかしながら、同会の先行研究は乏しい。近年、中島理壽氏が著書『市井展の全貌』において、百貨店美術部や新画商が開催した市井展を画商史の視点から考察された。同書は資料的価値が高く、淡交会をはじめとする市井展の出品作図版、参考文献等が調査されている。だが、中島氏も言及する通り、美術史の視点からの作品研究や批評研究には及んでいない。そこで、筆者は淡交会に係る美術雑誌および新聞の記事を収集し、同展覧会の性格と出品作の批評を探究する。大正末期から昭和初期における日本画界に多大な影響を及ぼした淡交会の解明は、近代美術史研究において重要な意義をもつと考える。第二に、「栖鳳紙」の調査研究の目的を述べる。「栖鳳紙」は、製紙家岩野平三郎が開発し、水墨風景画の画期的な作風を生みだす一助となった。先行研究としては、高橋正隆氏監修の著書『史料繪絹から畫紙へ 岩野家所蔵近代日本畫家・學者等の書簡集』で岩野の抄造に係る書簡の翻刻があり、また、松尾敦子氏による岩野平三郎と中田鹿次の製紙家の比較研究がある。だが、岩野の抄造研究が進む一方で、「栖鳳紙」個別の研究は現在未着手の状況にある。そこで、筆者は岩野家所蔵書簡、岩野平三郎手記、竹内栖鳳語録の一次資料をもとに、「栖鳳紙」の実態を総合的に分析する。また文献調査に加えて、岩野平三郎製紙所の現地取材、「栖鳳紙」を使用した画材実験を行う。このように、基底材の局面から絵画創作の経緯を検討することは、従来の竹内栖鳳研究を刷新する価値をもたらすと考える。第三に、潮来取材の写生帖の調査目的を述べる。水墨風景画の取材地の多くは茨城県潮来であり、そこでの現地写生は作品の制作過程を知る上で貴重な手掛かりとなる。先行研究としては、京都市美術館編集の『京都の叢書Ⅲ 竹内栖鳳の素描 資料研究』において、同館が所蔵する写生帖112冊に対して制作年代と題材の特定が進んでいる。本研究では、同書で潮来取材の写生帖とされる、同帖77《潮来風景など》、78《潮来風景など》、79《富士山麓・潮来風景など》を詳細に調査し、素描と本画作品を関連付けた研究を試みる。それにより取材地潮来の写生場所の特定を行うとともに、実景に忠実である写実的素描から、本画作品にみる非写実的画風が生まれた背景を分析する。「写生」画家と評される竹内栖鳳の絵画研究において、創作過程である実物素

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