─1935年にロンドンの王立芸術院で開催された大中国美術展と日本─研 究 者:立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員前 﨑 信 也 ③ 美術展覧会という外交 描の探究は、極めて有意義であると考える。 2 研究テーマの構想本調査研究の構想は、竹内栖鳳の美術史上の評価を再考することにある。平重光氏を代表とする従来の栖鳳研究では、円山四条派以来の「写生」、つまり、実物観察による写実を近代化した画家としての評価が通説である。しかしながら、本研究で取り上げる晩年期の水墨風景画には、「写生」とはむしろ対極にある非写実的表現が顕著に看取されるのである。したがって、水墨風景画にみる位相の解明を試みることが、本研究における最大の目的である。この目的を達成するためには、まず、作品研究、発表と制作背景の研究が基礎として欠かせない。そして最終的に、画業系譜の研究により、晩年の水墨風景画を彼の画業全体において位置づける必要がある。晩年期の非写実的画風を、壮年期の写実的画風と相対化させて評価する。このことが竹内栖鳳研究の再考を促し、ひいては、近代日本美術史の研究において重要な価値をもたらすと考える。これが本研究の構想である。意義近年、欧米の主要な美術館・博物館において中国政府主導による大規模な中国美術展の開催が相次いでいる。豊富な文化資源を用いた海外交流という点において、日本は大きく水をあけられていると言っても過言ではない。このような美術展覧会を利用した外交は、国際的な美術展覧会が一般的になった近代以降の現象であるといえよう。中でも最初期の例として、1935年にロンドンの王立芸術院(ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ)で開催された大中国美術展は重要である。展示のためにロンドンに集められたのは、国外未公開の故宮博物院の宝物に加え、西欧列強が所有する中国美術の名品の数々。そして、英国がこの美術展覧会を外交に、それも日本と中国との関係改善のために仕掛けたという点において、文化外交史上、極めて興味深い例である。
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