鹿島美術研究 年報第31号
47/132

ムの生成研 究 者: 東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程フランス独自の作品を生み出せるよう書かれたものである。したがって、ナショナリズムの問題と産業芸術振興の文脈を背景に見ることで初めて、シェノーによる先駆的な日本美術論の持つ意味が浮かび上がることになる。シェノーや同時代人によるテクストの収集と分析の他に、本研究では資料調査を行う。ゲッティ美術館には、装飾美術館設立に関わった重要人物ヴィクトール・シャンピエに宛てたシェノーの書簡が11通保管されている。パリの装飾美術館のアーカイヴには中央連合の一次資料が存在する。またローマのプリモッリ財団には、シェノーがマチルド皇女に宛てた手紙が存在する可能性があるので調査を行う。こうした一次資料と公刊されたテクストを、上述した大きな同時代的文脈と合わせて考えることで、ジャポニスムの先駆者の一人としてのシェノーの実像が浮かび上がる。またジャポニスム研究にナショナリズムの視点を導入すること、および中央連合の活動を描き出すことは、この分野における新たな研究領域開拓の可能性を探ることにも繋がるだろう。パリ第10大学 人文社会系研究科 博士課程  松 井 裕 美構想本研究はキュビスムと美術解剖学の関連性を扱う博士論文の一環を成すものであり、次の三本の軸に従って構想される。第一に本研究では個々の作品分析に基づきつつ、他の芸術家達の作品と相互比較することでより広い歴史的動向の中に分析対象の作品を位置づける。このためにデュシャン=ヴィヨンの作品だけでなく、ピカソやブラック、グレーズ、メッツァンジェ、フォーコニエ、レジェといったキュビストの作品や、ナデルマン、ブールデル、マイヨールやドラン、マティスの1900年から1907年までの彫刻作品も適宜調査の対象とする。第二に『エッフェル塔のふもとで』(1913年)、『建築と鉄』(1914年)といったレイモン・デュシャン=ヴィヨン自身による理論的著作、グレーズやメッツァンジェによる『キュビスムについて』(1912年)、アポリネールやアンドレ・サルモン、ロジェ・アラールによる美術批評所論キュビスム批⑤  レイモン・デュシャン=ヴィヨンの素描における美術解剖学の知識と分析的キュビス

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る