と《聖母子》について研究することで第二面全体の意味について解釈を行う。左翼の《受胎告知》では背景が教会の内部である点がドイツにおける図像伝統とは異なる。教会の内部を背景とした受胎告知図像はフランスには一定数の作例があるものの、そのほとんどにおいて画中に祭壇が描かれている一方で、本パネルには祭壇が描かれていない。この点に注目し、聖母を聖櫃と見る神学的観点から、祭壇=聖母という図式を筆者は想定する。聖櫃は聖体のパンを入れる容器であり、それゆえキリストの地上の肉体の器となった聖母マリアに比されるのであるが、本パネルにおいてこの教義が示されているということが、キリストの地上の肉体の誕生という事実を強調していると、筆者は現時点で考えている。次に中央パネルの《奏楽の天使》と《聖母子》のに関して、まず注目すべきは左半分の天使群と、建造物内向かって右奥の女性像である。建造物内最前列左の天使は通常のように人間と似た姿では描かれず、鳥のような姿をしている。また他の天使もそれぞれに光を発している。聖母子のいる場面に奏楽の天使が描かれること自体は珍しいものではないが、このような描写は他に例がない。偽ディオニシウスの『天上位階論』に始まる教会の天使論と、民間信仰における天使崇敬の実態を、図像と文献の両面から調査する必要がある。また、この図像も一連の奏楽の天使の図像の系譜にあることは確かであり、奏楽の天使の図像は聖母マリアと密接な関係にあるため、上記《受胎告知》に関する考察とともに、マリア図像とマリア神学への理解も不可欠である。もう一点、建造物内の女性像に関して、彼女の頭上の二人の天使が小さな王笏と冠を持っており、「聖母戴冠」の図像とも共通点がある。一方女性像の腹部が膨らんでおり、妊娠が示唆されているとも受け取れる。この人物が現在多くの研究者が支持する「聖母マリアの御期待」の図像であるという説を筆者も採るが、彼女を取り巻く天使たちに対する解釈によってはなおも検討を要する可能性がある。中央パネル左の《聖母子》は一見すると単純な構図である。しかしながら、この図を《キリスト降誕》と解説する研究者もいる。つまり、この図像を独立した祈念像とするか、物語を説明するナラティブな場面とするかが問題である。筆者は現段階で仮に《聖母子》と記述しているが、この点は検討の余地があると考えられる。その際考慮するべきなのは、聖母と幼児キリストの周囲の盥や幼児用ベッドといった小道具であり、これらは聖ビルイッタの『啓示』との関連が既に指摘されている。しかし同じ第二面の他のパネルでは『啓示』の記述と一致しない点が多く、他の典拠も考慮に入
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