れる必要がある。最後に右翼の《キリスト復活》キリストについては、何も持たずに手を大きく広げるポーズに着目し、キリストが自らの肉体の傷でもって人類を父なる神に執り成し、その救いを懇願するという、施療修道院にふさわしい意味内容を持つのである。この内容は既に2012年発行の『美術史』173冊において発表した。以上の内容を総合し、筆者は第二面全体の示す内容として、《受胎告知》及び《キリスト復活》に見たように、キリストの肉体性とそれによる救済という機能を想定したい。本祭壇画はアントニウス修道会という施療修道会の教会のための作品であり、病気に苦しむ一般信徒がその前で礼拝するためのものであった。患者たちは自らと同じ地上の肉体を持つキリストが、自らと同様に生まれ、苦しみ、復活する様を見て救済を得ることができたと考える。本研究で第二面の意味が明らかになることにより、祭壇画全体の意味への手がかりが生まれることが期待される。また、この祭壇画を研究することは、不明な点が多いアントニウス修道会の実態や、16世紀における病気の治療法、死生観等美術史の枠内のみに収まらない多様な問題を明らかにする学際的な研究の出発点にもなり得る。さらに、日本における美術受容はフランス近代絵画やイタリアルネサンス絵画など一部のジャンルに偏向しており、近年の受け手はやや食傷に陥っている感がある。またこの偏りが美術館を訪れる層の限定化にもつながっているため、既存のジャンル以外の美術に関する研究が行われることは美術市場の拡大にも影響する。この意味で大きくは日本の文化水準の向上にも寄与できる研究である。研 究 者:岡山市立オリエント美術館 学芸副専門監 飯 島 章 仁菓子木型は和菓子を作るための伝統的な道具であり、その時代、地域の文化を反映した意匠がこらされたものである。また、日本の菓子木型の彫刻法は版木や鎌倉彫などとも異なる特殊なもので、世界の菓子型文化と比較してもその精緻さや意匠の独創性は高い。菓子は立体であり、それらが型から抜き出されたときの造型を求めて高度な彫刻技術が発達した菓子木型は、それ自体でもきわめて芸術性が高いものである。紀州徳川家の注文を受けてきた総本家駿河屋にかつて存在していたと考えられる膨⑪ 近世菓子木型の研究 ─総本家駿河屋所蔵の資料を中心に─
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