鹿島美術研究 年報第31号
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研 究 者:関西大学大学院 東アジア文化研究科 博士課程後期課程 「意義」これまで青木繁の宗教観については、彼の強烈な個性と、宗教学という美術史の専門を超える内容の困難さから、ほとんど注目されてこなかったが、青木繁と宗教との関連を検討することは、さらに深い作品分析を可能とする。また、明治時代の美術、すなわち青木繁の研究をキリスト教やヒンドゥー教などの国際的な宗教の視点から進めることは、一国主義の日本美術史を脱した新たな美術史研究かつ新たな青木繁像を明らかにすることになるとともに、徐々に細分化されてきた現在の研究に、異なる視点を加えることになる。「価値」これまで美術史において、宗教学を取り入れて考察した研究論文はほとんどない。筆者のこれからの研究は、青木繁研究における新たな展開であるとともに、美術史の空白部分を埋める作業である。「構想」①「青木繁のインド文化に対する関心」彼の作品におけるインドの影響に関する論文はない。しかし、当時の雑誌に青木繁がインド建築の本を持っていたという記述があること、一時期インド人と暮らしていたこと、インドのモチーフを用いた作品が少しであるが残っていることなどから、彼がインドに興味を持っていたことが強く示唆される。青木繁は、明治36(1903)年に、数点の神話画稿に関する作品を出品しているが、そこにはインド文化の影響を受けて描かれたと考えられる作品が含まれていたことが明らかになっている。それらの作品は、現在行方不明になっているものの2点のみ確認することができる。まず1点目は、《ウパニシヤド(優婆尼沙土)》である。2点目は、石橋財団石橋美術館に所蔵されている《闍威弥尼》である。これらの2点をはじめとする青木繁のインドに関する作品について、どのような主題で何が描かれているのかを明らかにする。そのために、当時日本に輸入された書物を調査し、彼が読むことができたと考えられるものを挙げ、彼がインドに関する知識をどれほど持っていたのかということを検討する。②「『舊約物語』の挿絵について」青木繁が描いた『舊約物語』の計8枚の挿絵、《旧約聖書物語挿絵》を図像学的に分析する。また、筆者はこれまでの研究のなかで、《旧約聖書物語挿絵》に関して、作品分析と作品比較などによって、森田恒友(1881〜高 橋 沙 希⑭ 青木繁作品における宗教との関連性

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