鹿島美術研究 年報第31号
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と言うことができる。以上のように、本研究は、幅広い視点から明治宮殿の美術染織についての分析を試みる。それによって、従来の価値観では見逃されがちであった、近代の建築、室内装飾、そして美術染織などの美術の総合的な研究の可能性を探り、その端緒を開いていきたい。研 究 者:神戸女学院大学等 非常勤講師  門 脇 むつみ本研究は近世(主に十七世紀)に活躍した絵仏師・徳悦、徳応、貞綱(徳栄)による肖像画を対象とする。徳悦、徳応、貞綱(徳栄)らの肖像画は、現時点で把握できるものだけで三人あわせて五十点余にのぼり、十七世紀の肖像画において重要な一画を占めている。そして、それらのいずれもが丁寧で細密な表現による秀作であることは諸先学が注目される通りである。しかも、その像主は黄檗、天台、禅などの諸宗派にわたり、俗人、女性像もあり、作品の所在は日本各地におよぶ。また賛の多くが当時有数の高僧による場合が少なくないことも注目される。彼らはむろん仏画も制作したし、仏像や建築の彩色についても報告があるが、その点数、受容者の広汎さからして肖像画制作がきわめて重要な仕事であったことは間違いない。それら肖像画の優れた美質、社会的意義を評価し、その画業をできる限り解明することで、いまだ決して知られた存在とはいえない彼らを近世の肖像画家の一派として美術史上に位置づけ、近世画壇考察の新たな見通しを得たいと考えている。彼らによる肖像画は、ほぼ同時期の、系列を同じくする絵仏師の作画という点で一定の技法、様式を共通させている。顔は張りのある細い線でかたどり隈を施さず平面的に塗る。衣服にはやや太めだが抑制のきいた衣文線を用い、衣や器物は精緻華麗な文様で埋め尽くす、といった特徴がある。いささか形式化され、顔の平面的な描写のために生命感を感じさせない場合もあるが、おおむね迫真的な存在感の演出に成功している。同時代の狩野派や諸派のそれと比べても、十分に魅力的な、研究に値する肖像画群である。こうした肖像画群に焦点をあてることで、近世画壇考察に新たな見通しを得たいというのは、一つに同時代の他の作家との関係である。たとえば東寺講堂の大日如来坐⑲ 近世の絵仏師[徳悦、徳応、貞綱(徳栄)]の肖像画制作

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