鹿島美術研究 年報第31号
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制作、またその形成過程への理解を深めることは、16世紀の作例を含めた朝鮮王朝前期仏画全般の性格を知る上で、看過しえない課題であり、その解明には学術的価値が認められる。研 究 者:愛知県美術館 主任学芸員  大 島 徹 也筆者は、「抽象表現主義の絵画における文字性の問題」というテーマのもと、抽象表現主義の画家たちによる絵画作品への文字(「絵文字」ではなく、通常の文字)の導入、あるいは結果として彼らの絵画が見せるwriting(文字を書くこと)への接近という現象の要因や芸術的意義について研究することを意図している。第二次世界大戦直後のニューヨークに現れた抽象表現主義は、モダンアートの中心をフランスからアメリカへ、パリからニューヨークへと移動させる原動力となり、また、ヨーロッパの模倣ではない真にアメリカ的な絵画の出発点となった。美術史においてそのように重要な位置を占める抽象表現主義の芸術はこれまで、主題的、形式的、政治的、社会的、ジェンダー的等、さまざまな角度から研究がなされてきた。その中にあって、文字やwritingの問題は抽象表現主義の画家の個別研究において、時にわずかに言及されてきたにせよ、抽象表現主義の動向全体という視点からその問題を取り上げ、体系的に考察した先例は、筆者の知る限り存在しない。抽象表現主義に属する画家には、ジャクソン・ポロック、ウィレム・デ・クーニング、マーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、フランツ・クライン、ロバート・マザウェル、ブラッドリー・ウォーカー・トムリン、リー・クラズナー、マーク・トビーなどがいるが、実にその多くが、1940年代から1950年代、すなわち彼らの形成期から成熟期にかけての絵画制作において、文字やwritingという要素と関わっていた。そこでは、二、三の作家の間でいくらかの影響関係があったかもしれないが、全体としては、文字の導入ないしwritingへの接近は、それぞれの画家の独自の動機によるものだと思われる。少なくともそれは、流派としてあらかじめ方向付けられていたのではない共通現象であった。その注目すべき共通現象へと個々の抽象表現主義者たちを駆り立てたもの、そして、その共通現象が抽象表現主義芸術全体において持つ意味、それらを解明すること㉜ 抽象表現主義の絵画における文字性の問題

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