鹿島美術研究 年報第31号
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から19世紀における西洋絵画史、就中イギリス絵画との関係からこれを位置づけることが可能になるのではないかと考えている。源吉の作品は写実を基調とした風景表現に特色があるが、題材の扱いにおいて名所絵的・あるいは歴史的な題材から匿名的な風景表現に至る過渡的な様相を示している。油彩技法においても古典的な透明技法から不透明性の高い固有色による描写へと移行しており、印象派的な色相変化やラファエル前派的な明度の高い色彩による空間表現へ至る以前の過渡的な表現となっている。研 究 者:東京国立近代美術館 研究員  桝 田 倫 広本研究は、フランシス・ベーコン(1909-1992)の絵画と、彼が絵画を制作する上で、大きく刺激を与えてきたであろう映画との関わりを問う。そのことによって、とりわけ彼が1940年代から1950年代に取り組んできた作品の傾向のなかに、映画から切り取られたスチル写真からのモチーフの引用ではなく、映画そのものに対する関心を読み取る。これまでベーコンの絵画と映画との関連性は、描かれたモチーフや絵画形式の引用源として映画のイメージやフレームを求めるという点において捉えられてきた。それは、これまでのベーコン研究が、彼のアトリエに残された映画のスチルなどの「静止画」の照応によって考察されてきたことに由来する。こうした実例として、たとえばセルゲイ・エイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」に登場する泣き叫ぶ乳母の姿のスチルや印刷物を基にベーコンは描いていることや、彼の採用する三連画という形式は、アベル・ガンスの三連スクリーンの映画「ナポレオン」に由来するなどと指摘されてきた点が挙げられよう。近年、マーティン・ハリソンによって指摘されているように、ベーコンが映画に対して高い関心を払ってきたことは、30年代にロンドンのフィルム・ソサエティーのメンバーだったことからも窺える。だが一方で、ベーコンが実際にどの時期に何の映画を見たかはさほど詳らかではない。本研究は、これまでの先行研究が積み上げてきた成果のように、ベーコンの描く絵画のモチーフの参照源を映画のあるシーンから探し出すものではない。むしろ映像の鑑賞体験、具体的に言えば、映画のスペクタクル性やスクリーン上に現れては消える㊱ フランシス・ベーコンと映画

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