鹿島美術研究 年報第32号
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味の幅をもたせることができる。さらに、高精細なデジタル化が進み、美術作品そのものを見なくても納得してしまうという美術鑑賞に、一石を投じ、色材の物質性を知ることによって、人間が創造した美術作品そのものの感触を知る、触覚的な視覚を呼び起こすものと考えられる。本研究を進めるにあたってはこうしたいくつかの意義があると考える。構想本研究で得た内容と資料については、将来的には、展覧会または報告書として発表する。予定するタイトルは構想として「日本の色・世界の色―色材からみる文化史」「色材文化史をめぐる5つの物語」などが考えられ、色材から絵具の形態、そして美術的視点を軸にして、考古や民俗資料など横断的構成に及ぶものとなる。目黒区美術館で1992年から2004年まで続けた「色の博物誌」の次のステップ第二弾として、さらに深化させた内容で行いたいと考える。さらに、展覧会や報告書を成り立たせるための重要な手段の一つとして、連続するトークイベントなどを開催する。広い範囲から色材文化について言及していくため、ロンドンのウインザー&ニュートン社で研鑽をつまれた顔料史の研究者、以前、テートギャラリーで Paint& Painting が開催されたが、そのユニークな企画展の関係者などを招聘する。ワークショップとして、古典文献に基づいた専門家向けの絵具つくりに関するワークショップなどを開催し、その他の美術館の普及活動にも広げていく。可能であれば、より一般への普及をめざし、大人のための絵本『色の文化史』、子供のための絵本『いろのおはなし』の制作を計画し、美術史を知るための視点がいろいろにあることを教育の中に役立たせる。本研究は、こうした美術館や学校での教育活動にも応用できるようにしていきたいと考えている。研 究 者:成城大学 非常勤講師  野 田 由美意 意義・価値①「若きラインラント」の美術史的評価と位置づけバウハウス、ダダ、新即物主義が登場したヴァイマル共和国時代、デュッセルドルフの「若きラインラント」がこの時代の近代芸術運動の重要な一拠点となったこと㊺ ナチス時代における「若きラインラント」の画家たちの芸術活動について

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