鹿島美術研究 年報第32号
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いと思われる。以上、円熟期をむかえる以前の二人の作品を調査研究することにより、後に各々京都で展開した画業の基盤となっている表現方法や考え方を探ってみたい。さらに、二人の画業を比較して考えてみることで、時代の転換期を生きた二人の画家が東アジアの文人文化の蓄積をどのように継承し、そして新時代の南画をどのように創造しようとしたのか、南画の継承性と創造性の問題について立体的な視点で考察を試みたい。研 究 者:名古屋大学大学院 文学研究科 博士研究員  前 田 朋 美本研究の目的は、素描と完成作の対応関係から素描の役割を検討し、画家がどのような探求の過程を経て成熟期のクリムトの基準となる様式を確立したのか、その点を明確にすることである。併せてクリムトを取り巻く環境に関する同時代の資料の精読、分析によりその実態を解明することを目指す。画家自身の関心の変化が様式の展開を導くことから、筆者は様式の分析に際して素描に着目する。作品によっては素描と完成作の対応関係が不明瞭な場合もあり、両者の関係は作品ごとに異なる。そのため素描は貴重な研究資料にもかかわらず、研究上の俎上に載せられてこなかった。そこで素描と完成作の関係が作品に応じて変化する点に注目し、本調査ではその関係を重要な特徴と捉える。この特徴を把握した上で素描に描かれている造形的要素を分析する。そしてクリムト研究の中に重要な成熟期の様式を決定づける《法学》がどのように生まれてきたのか、を明らかにする本調査は、未だ不明な点の多いクリムト研究の空白を埋めることができる。そしてクリムトの《フリーズ》と《法学》を研究することにより、当時の「空間芸術」の内実を明らかにする。というのも、《フリーズ》の制作に際して核となった「総合芸術」が当時の「空間芸術」の概念と関連して捉えられているからである。クリムトは《フリーズ》の制作を経験し、その上で「空間芸術」のやり方を《法学》で探求していたと考えられる。《フリーズ》の制作において習得した線の可能性と「総合芸術」の概念に基づき作品を構成するという経験が《法学》の制作に、人物描写の多様性と新たな空間意識を与えた。その結果《法学》は、それ以前に制作された学科絵《医学》とは異なる性質㊿ グスタフ・クリムトの《法学》の素描に基づく様式及び作品分析に関する美術の研究

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