1912年5月、コラージュの創始者となったピカソはその後も、絵画制作の諸問題を解決しようと多くの立体作品に取り組んだが、その全貌が公に提示されるのは1967年、ニューヨーク、MoMAでの“The Sculpture of Picasso”展であった。町田氏以上のように、山本友我の「瀟湘八景図」は江戸時代の詩画軸であるが、これほど詩画軸の成立が明らかに知られる珍しい作例で、室町時代の詩画軸のみならず、日本の詩画軸について考えるのに貴重な事例を明解に提示した調査研究は財団賞に相応しいと判断された。優秀者には上野友愛氏が選ばれました。上野氏の研究は、作者不明、画風も様々で美術史としての作品研究が手つかずの「お伽草子絵」を「場」と「景観」、ことに遺例の多い清水寺関係の作品を切口として研究を進め、その成果として「お伽草子絵」研究のみならず同時代の参詣曼荼羅や洛中洛外図などとの考察にも相互に役立つところ少なくなく、その着眼点と「実験的な試み」が評価された。《西洋美術部門》 財団賞 町田つかさ氏(和泉市久保惣記念美術館 学芸員) 「パブロ・ピカソによる1950年代以降の立体作品について −Alfred Barr Papersに見る展覧会“The Sculpture of Picasso”(1967)の実態とその意義−」 優秀者 内山尚子氏(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程) 「イサム・ノグチによるAP通信のレリーフ《ニュース》におけるジャーナリストのイメージについて」《選考理由》パブロ・ピカソと言えば、20世紀を代表する絵画の巨匠として人口に膾炙するところだが、そのピカソが20世紀アヴァンギャルドの地平を切り拓くような実験的な彫刻(立体)作品を継続的に制作していた事実は、画家としての平面の仕事ほどには広く知られていない。それはピカソ自身が、石膏やブロンズばかりか、パピエ・コレやコラージュ、金属板彫刻などの立体作品をあたかも秘匿するかのようにアトリエ内に閉ざし、展覧会などで一般公開しなかった(写真公開は別として)ことに起因するであろう。(文責:有賀祥隆委員)
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