鹿島美術研究 年報第32号
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は、同展実現のための困難な交渉の経緯をMoMAアーカイヴのAlfred Barr Papersに辿りながら、ピカソ芸術における彫刻の使命を論証すると同時に、キュビスムの造形革命の鍵たる立体作品《ギター》が収集された意義を跡付けていく。なぜアルフレッド・バーJr. がピカソの彫刻蒐集にあれほどの情熱を傾けたのか、その論旨の展開はドキュメンタリー・タッチで刺激的だ。それ以前の1957年、MoMAは画家の生誕75歳を記念して回顧展を開催したが、「75歳のピカソ」論で同展を批判したのが抽象表現主義の理論家グリーンバーグである。従って、それから10年後に開催された“The Sculpture of Picasso”展はそうした批判への返答であったとも考えられよう。この彫刻展でメルクマールとなった《シルヴェットの胸像》を、町田氏は「折り」の手法による絵画と立体の融合であり、《ギター》の延長上に位置づけられると結論づける。しかし、この辺りは今後、他の絵画や彫刻との比較によりさらなる洞察が必要とされるところであろう。町田氏の本調査研究は、彫刻家ピカソの活動を、その展覧会実現の経緯を再現しつつ再評価する一方で、第2次世界大戦後の創作活動が一部批評家により否定的に扱われてきたきらいがある後半生のピカソ批評に修正を迫ろうとする意欲的な試論となっており、鹿島美術財団賞に十分に値すると判断された。優秀者の内山氏は、日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチが手がけた大型レリーフ彫刻《ニュース》(ロックフェラー・センター、ニューヨーク)を対象に、イメージの意味やソースを詳細に分析している。本作は、「早く正確な」報道で知られるAP通信が同社玄関を飾るために1938年にコンペを行い、それに優勝したノグチにより制作されたものである。5名のジャーナリストによるその裸体群像レリーフは、『ロックフェラー・センター・マガジン』の写真を活用しながら同社の理念をただ造形化しただけでなく、そこには、報道に奉仕する知的でたくましい労働者に止まらず、「自由」や「民主主義」などのアメリカ型アイデンティティに迫る造形的特質を宿していると内山氏は結論する。その論証は着実で説得性があり、優れ(文責:大髙保二郎)た調査研究として優秀者に選抜された。  注  研究者の所属・職名は、選考時のものです。

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