2.イサム・ノグチ作《ニュース》におけるジャーナリストの身体表象について 発表者:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程 以上をふまえ、「蛙草紙絵巻」(根津美術館蔵)を対象に、名所絵や参詣曼荼羅、洛中洛外図などの作品に蓄積した清水寺のイメージとの積極的な比較検討を実践する。「蛙草紙絵巻」は、清水寺参詣に始まる物語であるが、清水寺のくだりがなくても優に成立するストーリー展開であることから、国文学の側では、清水寺の要素は取って付けた趣向に過ぎないと指摘されてきた。確かに、本絵巻には一見、清水寺らしい景観表象は認められない。しかし、「蛙草紙絵巻」に描かれた図様と、名所図や洛中洛外図に描かれる、清水寺ならびにその周辺の情景を比較することで、本絵巻にとって清水寺は物語の発端として必然であったと考えられるのである。国文学に限定されない、新たなお伽草子絵研究の可能性を提示したい。本発表ではまず、コンペティションに出品された他の作例との比較から、ノグチのデザインが、従来の寓意像表現に頼ることなく「ニュース」という主題に取り組んでいる点、とりわけ、受け手ではなく発信者としてのジャーナリストの姿でこの主題が図像化されている点において評価された可能性を指摘する。さらに、共通する図像の内 山 尚 子1930年代末のニューヨークにおいて、日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチ(1904−88)は、ロックフェラー・センター内AP通信社の装飾コンペティションに優勝し、5名のジャーナリストを描いたステンレス・スティールのレリーフ《ニュース》(1938−40)を制作した。本作例は、第2次世界大戦以前の具象的なアメリカ美術を看過する傾向のあるモダニズムの美術史観と、日本との関係性が顕著となる戦後の活動に重点が置かれるノグチ研究の性質のために、先行研究の中で十分に検討されることがなかった。しかし、発表当時このレリーフが「全体主義に抗するアメリカの報道の自由の象徴」として注目されたことを踏まえれば、本作は、第2次世界大戦直前のアメリカの社会文化的文脈の中で解釈され得るものであり、「根無し草のコスモポリタン」というノグチのニュートラルなイメージを問い直す手がかりとなるものと考える。
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