鹿島美術研究 年報第32号
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(2015年)研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程  坂 本 龍 太本研究は筆者がこれまで継続して行ってきたスルバラン作ラス・クエバスのカルトゥジア会三部作研究の一環であるとともに、今後の同研究の礎を築く重要な研究である。セビーリャ、グアダルキビル川河畔に位置するラス・クエバスのカルトゥジア会は、その厳格な修道実践によって多くの寄付を受け、国内屈指の豊かな資産を有する大修道院となった。寄付によって得た美術品や聖務の道具の保管所である聖具室は、17世紀におよそ1世紀ぶりに大規模な改装がなされた。この目的のため、まずは聖具室装飾が修道院にとっていかなる意味を持つのかという点を明確にする。同時代の他修道会の聖具室装飾事業の例を検証することによって、修道院が聖具室装飾に期待した役割が明らかになるだろう。次に1650年頃のラス・クエバス、延いてはカルトゥジア会の状況を探る。1655年は、ブラス・ドミンゲスがラス・クエバスの修道院長を務めていた時期にあたる。ドミンゲスは1654年には本部グランドシャルトルーズを訪れており、この時、1648年に完成したばかりの回廊装飾、ル・シュールによる聖ブルーノの生涯連作を目にしている。それにもかかわらず、ドミンゲスはまるでそれに対抗するかのように、聖具室装飾を実施し、聖ブルーノの生涯を、修道会の美徳の賞賛のために利用した。聖人の称賛よりも修道会の美徳を強調1988年、バティクルによる現地調査で、作品が設置されていた額が発見され、三作品がカルトゥジア会の美徳、重要な理念を示す三部作であることが明白となった。制作年は、長く議論の争点であったが、近年の研究者たちが主張するように、18世紀の修道院文書が伝える1655年という制作年が妥当と言える。未だ異論の余地はあり、ほかの可能性を提示する研究者もいるが、スルバランの様式発展から考えても1655年が妥当である(注)。制作年の特定が一定の解決を見た現在、これまで全く語られてこなかった聖具室装飾の動機に関し考察を進める段階に至った。制作年が不明瞭であったため、これまで動機に関し、考察が及ぶことはなかったのである。研究目的の概要① スルバラン作ラス・クエバス三部作研究 ―聖具室装飾の背景と動機の解明―Ⅲ.2014年度「美術に関する調査研究」助成者と研究課題

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