鹿島美術研究 年報第32号
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研 究 者:霞会館 資料展示委員会 学芸員  金 原 さやこ本研究は、明代初期の青花の様式的特徴について、「雲堂手」と称される明代の青花磁器を中心に考察を行う。特に正統・景泰・天順年間(1436〜64)の景徳鎮民窯に焦点をあてる。その理由は、この時代は磁器制作の実態があまり分かっておらず、文献上には窯の焼造記録が残っているが、この三朝の年款銘を記した伝世品が残っていないことから研究が難しく曖昧なままにされてきたからである。しかし、近年、景徳鎮正統年間の地層から、大量の青花(雲龍文)が発掘されたとの貴重な報告があり、さらなる研究の進展が期待されている分野でもある。雲堂手は、この時代に分類されているものが多いが、その理由づけについては曖昧なまま現在に至っている。そこで、筆者はこの点に着目し、雲堂手を軸にこの時代の青花磁器の様式的特徴を指摘し、編年の確立を目指す。雲堂手には次の二つの異なる特徴がある。①小型の碗などに簡略な筆致で雲と楼閣人物文様を表した青花。②大型の壷に同じ文様が精緻に描かれた青花。日本で主に茶陶として受容されたのは①で、②は①に先行して制作された、いわば初期雲堂手である。これまで、制作時期に幅があることが指摘されてはいるものの、資料の少なさから編年立てまでは行われていない。基準となる紀年銘のある雲堂手がないことも要因と思われるが、中国での考古調査によって同時代の紀年墓の発掘が進み、雲堂手の手掛かりとなる資料が次々と明らかになっている。このような出土資料も考察対象とすることは、雲堂手の様式変遷を明らかにする有効な手段であると考える。雲堂手の文様は、雲・楼閣・人物に大きな特徴があり、特に②の初期雲堂手には、先行する元青花の文様に類似する点が多い。壺に人物文を描く場合、その背景として場面の転換を図るかのように使われているのが雲や楼閣文様である。本研究では、それが明初の青花の中に持ち込まれ、主として民窯の器に受け継がれていることに注目する。そして、構図上ほぼ例外なく現れる雲形について、既に元青花の中に特殊な人物を示すために描かれている例を挙げ、それが明初になると背景の大部分を大きな雲形が占めるようになり、特に一場面の区切りにこの雲形と建築物を巧みに利用するようになるなど、初期雲堂手の様式的特徴を考察する。また、元青花などの陶磁器のみならず、同時代の金銀器、漆器、絵画などと比較検③ 明代初期の青花磁器の様式的特徴について ―雲堂手を中心として―

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