鹿島美術研究 年報第32号
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―MIHO MUSEUM所蔵「源氏物語絵巻」を中心に―研 究 者:MIHO MUSEUM 学芸員  高 垣 幸 絵討を行うのが本研究の特徴である。特に陶磁器は、金銀器から大きな影響を受けており、雲文様と比較することは有効であると考える。また、絵画は戯曲の挿絵に類似が認められるなど、雲堂手の特徴を捉えるうえで欠かすことのできない比較対象である。文様の具体的な比較検討、分類を行うことにより雲堂手を軸とした正統〜天順期の青花磁器の様式的特徴を明らかにすることも可能ではないかと考えている。住吉具慶筆「源氏物語絵巻」(MIHO MUSEUM所蔵)は、全5巻からなる。『源氏物語』54帖の各帖から抜き出された、今上霊元天皇を筆頭に公卿・門跡による詞書と、それに対応した図が一対になっている。本作品については、榊原悟氏により既に詳細な研究がなされており、詞書の筆者の生没年や具慶の落款により、制作年代は寛文10年(1670)から延宝2年(1674)頃と推定されている。この頃、公家の筆による詞書を伴った巻子や画帖は、幕府や大名などの注文により多く制作され、それらが武家の婚礼調度や贈答品として用いられた記録も残っている。伊達家伝来とされている本作品も、詞書の錚々たる筆者を鑑みれば、特別の目的のために、かなり身分の高い人物の注文によって制作された可能性が高く、江戸前期の武家の注文による絵画制作を考える上で重要な作品である。住吉具慶(1631−1705)は、父・如慶(1598−1670)とともに江戸時代前期を代表するやまと絵師である。具慶は延宝2年(1674)には法橋に叙任し、貞享3年(1686)からは幕府の御用絵師を務め、元禄4年(1691)法眼に叙せられた。当時狩野派が独占していた御用絵師に具慶が選ばれたことは注目すべき事で、具慶が絵師としてどれだけ頭角を現し、高い需要を得ていたかを物語っている。源氏絵は、土佐派が得意とした主題であり、住吉如慶・具慶も多く手がけた。濃彩華麗な描写を特色とする土佐派に対し、住吉派による源氏絵は淡彩による瀟洒な表現が特徴とされている。しかし、例えば本作品の第50帖「東屋」には、市井の人々が生き生きと描き添えられ、「源氏物語」という貴族が主役の古典的な主題に、現実感の④ 住吉具慶の人物表現・物語表現の特色について

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